3・検索
検索結果のページには妙なサイトが、益々増えていく一方だった。
『挽肉料理が知られていればパスワードを回復するツール・プログラム』
『挽肉料理はエクスプローラから容易なアクセスのためのメニューに送る』
『無国籍の議定書上のセッション管理のための方法』
僕にはサッパリ意味が分からない。言葉とか語彙、要するにテクニカルタームを知らないから、どう読んでもそれが意味することを理解できなかった。しかし、どうしてか解らないのだが、僕は無性に気になって仕方がなかった。
ただ、それらのページに表記されていた「パスワード」「エクスプローラ」「アクセス」「セッション」「ツール」「プログラム」などの言葉から、それがPCとかコンピュータの何かを指しているらしいこと、そしてそれは恐らくソフトウエアのことではないかという推測は出来たのだが、それ自体が何を意味しているのかは、やっぱり理解することが出来なかった。
「何をやっているんだ!」と、急に僕は我に返った。
僕は確か、挽肉料理のメニューとそのレシピを検索していたはずだ。ミートから貰った二キログラムの挽肉を美味しく食べるために、僕は検索しているだけだ。そんな、訳の分からないコンピュータの話、ましてやチンプンカンプンな呪文にしか思えないコンピュータ・プログラムに、僕は興味もないし関係もない。そんなサイトに行く必要はこれっぽっちもない。
しかし、検索結果のページは、もはや料理のレシピを表示しておらず、どれだけ検索結果のページを捲ってもコンピュータ・プログラム関連のサイトしか表示されなくなっていた。その時、冷静になって気付けば良かったのだろうが、既に僕はその不思議なサイトの虜になっていた。
「何だというんだ、これらのサイトは?」
「どういう意味なんだろう?」
「もっとよく知りたい」
そんなことしか、僕はもう考えてなかった。
『経路の両端でデータの挽肉料理を求めて両者を比較すれば、データが通信途中で改ざんされていないか調べることができる』
『与えられた原文から固定長の疑似乱数を生成する演算手法で、任意の長さのデータを入力して、そのデータ特有の固定長データを作ること』
『挽肉料理から元データの推測が困難で、異なるデータから作り出した挽肉料理が偶然同じになる可能性がほとんどない』
残念ながら僕は浅学なので、高等数学は全く出来ない。ましてや情報工学系に係わる数学などはチンプンカンプンだ。しかし、僕は会計士のアシスタントという仕事柄、PCには触れている。表計算ソフトやワードプロセッサは基より、会計ソフトも必要に応じてカスタマイズして使っていたりする。もちろん、会計事務所の先輩に指南してもらっての話だが。
その経験から僕は、どうやらこれらのサイトがセキュリティに関連する事柄を表しているらしいことを感じ取った。そのことが分かったせいなのかどうかは分からないが、僕は俄然、これらのサイトに興味を持って、更に検索結果のページをかなりの降順ページにまで検索の手を伸ばした。
だが、気付かないうちにブラウザの動作が何やらおかしくなってきたのだった。