1・留置場
【世にも奇妙なショートショートコンテスト】に参加し損ねた作品。「習作」としてお楽しみくださいませ。
僕は今、小さな部屋の中に居る。
天井に直付けされた蛍光灯の青白い光が僕を照らし続けていた。
室内全体に無機質な白い塗料が塗られた小さな部屋の片側に、むき出しの便器が設置されていて、その反対側には簡素なベッドが置かれていた。
小さな窓がこの部屋にはあるけれど、それは手が届かない位置にあり、おまけに外側には鉄格子が嵌っていた。そして、出入り口の扉は外側から施錠されていて、内側から開けられなかった。
簡素なベッドの上には、薄汚れたベージュ色の毛布が綺麗に畳んで置かれていた。僕はベッドの上に座り、毛布の横で両膝を抱えて座っていた。それも震えながら。もう五時間以上もこの部屋に留め置かれている。もっとも、この部屋から出られないので、仕方のないことなのだけれど。要するに、この部屋で僕は軟禁されているのだ。
この部屋は警察署の留置場。
僕は逮捕されたのだ。
どうして捕まったのか、おおよそのことは理解している。しかし、僕はそれを故意にやった訳じゃない。しかし、僕は既に犯人扱いをされている。いくら言っても、何をどう言っても無駄だった。僕は諦めて、途中から黙秘をした。幸いなことにアジアの片隅の国とは違って、ここでは容疑者でも人権は確保されている。黙して何も喋らない僕に、取調官は取り調べを中止した。その結果、僕はこの部屋の住人になったという訳だ。
肌寒くなってきたこの部屋で、僕は綺麗に畳まれていた毛布を広げて包まった。それでも震える身体を僕は両の手で抱えた。それでも震えは止まらなかった。たぶん、寒さだけのせいではないのだろう。そして自分の身に降り掛かったこの災厄を呪った。
「どうしてこんなことになったのだろう……」
僕はゆっくりと記憶を辿り始めた。だが、今だに続く緊張と興奮でうまく思索することが出来ないまま、時間ばかりが経過していくように思われた。
「ぎゅるるるる……」
突然、僕の腹の虫が鳴った。その音を聞いた途端、僕の緊張は一気に解放されて気持ちが和んだ。
「あー、腹が減った」
覚えず口からその言葉が出た時、僕は全てを思い出したのだ。
「あの時、僕はネットで調べ物をしていたんだよ、確か」
そして、僕はつい大声を出してしまった。
「挽肉料理のレシピだ、検索していたのは!」