テレパシースコープ 50音順小説Part~て~
初探偵モノです。
やはりミステリーとかって散りばめた謎をどうやって拾っていきタネあかしをするかって
いうのがミソですよね。
難しいです・・・・・
1
手紙と共に入っていたのは謎のスコープだった。
現在世界中を旅している両親から月に一度来る手紙の中に
今回は珍しくプレゼントが同封されていた。
手紙によると今はちょうどアメリカオハイオ州北部のマイラン村にいるそうだ。
そこの骨董屋で見つけたスコープを店主にこれは珍しいものだとか、
今ならお安くするとか言われて購入したみたいだけど・・・・・。
はっきりいって騙されて買わされている。
いつも思うのだがこんなに騙されやすい性格でよく人並みの生活が
出来るものだと感心している。
プルルルルルルルル プルルルルルルルル
廊下の先で電話が鳴りだし受話器を取る。
「もしもし?」
「あっテル?手紙届いた?」
電話の相手は母だった。
「届いたよ、素敵な贈り物と一緒にね。」
スコープのレンズをのぞきながら皮肉交じりにお礼を言う。
「もう、テルがそう言って褒める時はいつも嬉しがってないのよね。」
「だってこんな古いものどうしろっていうのさ。普通の男子高校生はこんなもの持ってないよ。」
「ん~大事にとっておきなさい。いつかお母さんたちが死んだあとお金に困ったら
それを売りなさい。少しはお金になるはず!」
「いや~、これはどうみても・・・」
ガラクタだろうとまではさすがに言えず言葉を濁す。
「と、いうことだからお父さんとお母さんはまだまだそっちに帰れないから
テル一人にするのは心配だけど家のことは任せたわよ。」
むしろ自分一人の方が両親がいる時より心配の種が減るのでよっぽど安心できる。
「あぁ了解。こっちは大丈夫だからゆっくり世界一周してきなよ。」
「それじゃあね。」
「はいはい。」
そのままガチャンと受話器を置いていつもの会話を終えた。
「スコープねぇ・・・。」
俺は星にも宇宙にも関することに興味はないので使い道に困ってしまう。
まぁ、せっかくもらったものだから早速二階の窓から星を見上げてスコープのレンズを覗く。
古いスコープなので倍率はそんなに高くならず肉眼で見るより
少しマシになるくらいで使い物にならなかった。
「だめじゃん。」
押入れの奥底に押込められることになるだろうスコープの先を満天の星空から
そこらを歩いていた酔っ払いに変更した。
それはただの気まぐれだったのだがまさかそこから俺の生活が
少しずつ変化していくとは思わなかった。
レンズの向こうには千鳥足のサラリーマンがふらりふらりと歩いていた。
「あのおっさん大丈夫か?」
スコープで酔っ払いサラリーマンをただなんとなく見ていた。
(あ~あ、帰ったら母ちゃんにまたしぼられるな~)
すると、どこからか男の声が聞こえてきた。
「なんだ?いまのは・・・。」
すぐ近くで聞こえてきたのに驚き周りを見渡す。
もちろん家には俺一人、見える限りの視野の中にはおっさんしかいない。
「気のせいか・・・・・・」
寒空の下、体が冷えてきたこともあってその時の俺は風の音が
たまたま人の声に聞こえたものだと思ってそのまま部屋の中に引っ込んでしまった。
2
次の日の学校、昼休みに弁当を取り出そうと鞄を開けたら
あのスコープが知らぬ間に入っていたのに気付いた。
「あちゃ~、朝急いでる時に一緒に入れたのかな。」
「何々?その万華鏡みたいなの?」
ひょこっと鞄を覗き込んだのは中学の時から4年連続で同じクラス女子生徒の紫菜である。
「テルくん、それどうしたの?」
「両親が送ってきたんだ、あとこれは万華鏡じゃなくスコープ。」
「へぇ~、ずいぶん古いみたい。」
「そう、こんなのもらってもどうしようもないんだけどな。」
そういいながら俺は紫菜にスコープの焦点を合わせた。
(今日のテルくんのお弁当何かな~?からあげ入ってたら欲しいな~。)
また聞こえた、今のははっきりと。
これは空耳ではない、絶対に聞こえた。
それも今度は誰の声かもわかった。
「紫菜・・・残念だが今日はからあげ入ってないぞ。」
疑惑を確信にするため聞こえた声の持ち主に思い切って答えを返した。
そして紫菜の表情でそれは確信へと変わった。
「なんだ~ちぇっ。って、えっ~!?」
紫菜は丸い目をさらに真ん丸にして俺を凝視する。
俺は再びスコープで紫菜を視る。
(どうして紫菜の考えてること分かったんだろう・・・、もっもしかしてテルくんはエスパー!?
いやいやエスパーなんていないし、まさか知らないうちに紫菜の顔にからあげなんて
書いてあったとか!?あまりの欲しさに無意識に書いてたなんて恥ずかしいよぉ~。)
どうしてそういうところに行きつくのか紫菜の不思議な思考の成り方を詳しくみれたにも関わらず
俺はいまいち理解できなかった。
「・・・顔はいたって普通だ。何も書いてない。」
頬をゴシゴシと擦りすぎて真っ赤になってもなお擦り続けている紫菜を止めにかかる。
「ふぇ?本当?」
「本当。だからもう擦るな、赤くなってるぞ。」
「じゃあどうして紫菜の思ってること分かったの?その・・・からあげ食べたいって。」
ちらっと俺を見て今度は頬を擦ったせいではなく顔を赤くして恥ずかしそうに言う紫菜に
何と伝えればよいのか言い淀んだ。
「うん・・・あのな、俺もよく分からないんだがどうやらこれのせいらしい。」
「スコープ?」
俺の手にあるスコープを指さす紫菜は予想通り眉間にしわを寄せていた。
「お前でさえいぶかしがるぐらいだから相当突飛なことなんだろうな。」
俺だって昨日から目にしているが今でも信じられないのだ。
「本当に人の心が読めちゃうの?」
「試しにやってみるか。」
その古いスコープを慎重に紫菜に渡す。
しばらくじっとそれを眺めていたが意を決してレンズを覗く。
レンズの矛先は俺。
「テルくん・・・。今日のおかずは卵焼き・ウィンナー・煮物・漬物ショボいんだね。」
「そう、今日は時間がなくて・・・ってショボいは失礼だろ。」
紫菜はまさしく俺の考えていることをズバリと的中させた。
これで俺だけでなく紫菜も使用し効果を発揮したことで
このスコープの能力が本物であることが実証された。
「すごいよっテルくん。世紀の大発見だよ!」
「あぁ確かにな。でも俺が持ってても手に余るだけだ。」
紫菜から返されたスコープをまた慎重に持ち鞄にそっと安置する。
「親が帰国してくるまで俺の部屋の隅にでも大切に保管しておくか。」
「そんなのもったいないよ。これはきっと何か意味があってテルくんの元に来たんだよ。」
その意味ってのは両親が騙されて買わされたということだとと内心思っていたが
こんなにも紫菜が目をキラキラさせて語っているので黙っておくことにした。
「これを役立てて人助けをするんだよ!」
勢いよく喋っていた紫菜がやっと結論にたどり着いた。
「人助けっていっても何をすればいいんだ?」
「う~ん・・・」
腕を組み深く頭を垂れて熟考している紫菜はまるで居眠りしている親父のようだった。
「例えば~・・・・・、そう!探偵とかっ!!」
「探偵?」
現実からは程遠い職業に俺にしては珍しく素っ頓狂な声を上げてしまった。
「探偵ってそう簡単になれるものじゃないだろ。推理力とか洞察力とか必要だし。」
「でもでも、そんな面倒くさいことしなくてもこの不思議で素敵なスコープ一つで
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「今のジョークはいまひとつだったがいつものお前にしてはよく出来た方だ。
けどなこのご時世探偵って職業は儲からないんだよ。俺は手堅く公務員を目指す。」
紫菜の長いギャグを遮り俺の地味な人生プランを話す。
「夢のないこと言わないでよ~。探偵はかっこいいよ、テルくん似合いそうだし。」
紫菜は口にパイプをくわえるポーズをして
どうやらシャーロックホームズの真似らしい。
「俺がホームズなら紫菜はワトソンってとこだな。」
「わぁ~探偵の相棒なんてかっこいい!って紫菜間抜けな役じゃん。」
「ぴったりだろ。」
「もぉ~ふんっ。」
こいつはからかったらからかっただけボケたりツッコんだりするので
いくらいじってても全く飽きない。
「二人で探偵団立ち上げよう!町の平和は私たちが守るんだって。」
そんな話をしている時だった。
一人の男子生徒が慌てて教室に入ってきて皆に大声でニュースを伝えた。
「おい、今聞いたんだが女子更衣室に泥棒が入ったんだって!!」
3
詳しくいうと入られたのはテニス部の更衣室であった。
女子更衣室に泥棒が侵入したのに気付いたのは午後イチで体育の授業がある
クラスの女子生徒が部室で着替えるために昼休みに来た時だった。
中は荒らされまくり泥だらけであったという。
しかし不思議なことに盗まれたものは何もなかったらしい。
窓が開いていたことから犯人はそこから侵入及び逃走したと思われる。
以上が昼休みから放課後の間に分かった情報である。
「紫菜の見解によると犯人は女子更衣室への侵入に成功はしたものの
目当ての下着がなかったため盗るのをやめたっ!これで間違いない。」
「そんな犯人いるのか・・・。というか探偵は犯人のことをホシとは言わないだろ、
それは警察だ。」
「じゃあテルくんはなんで何も盗まれてなかったと思う?
しかもあんなに部屋が汚されてたんだよ??」
「そこが引っ掛かるんだよな。なんで泥だらけだったのか・・・。」
「ふぇ?」
「仮に犯人の目的が盗みだとしたら汚す必要はないだろ。だから他に目的があったとか。」
「なるへそ~。そうすると目的は何なんだろう?」
「さぁ。」
まぁ一介の高校生にはさっぱり分からないことばっかりで犯人の目的なぞは
皆目見当もつかない。
「だったらさ・・・」
紫菜が瞳をキラキラ輝かせてこちらを見つめる。
「あのサイコメトリーの力が秘められているスコープを使うしかないよ!」
「言うと思った。けどそんなに上手くいくか?」
「そんなのやってみなきゃ分かんないよ。とりあえず第一発見者のとこへ
レッル・・・・・レッツゴー!!」
「今噛んだな。」
そのまま紫菜に引きずられ第一発見者の女子生徒のもとへ向かった。
4
第一発見者は二人、雨宮と榊原という先輩で二人ともテニス部員だ。
「部室の鍵を開けて入った途端あの有り様ですぐに泥棒を疑って
何か盗られたものがないかすぐに調べたんだけど特になくて・・・一体何だったのかしら。」
部長である雨宮は鍵を常に預かっているらしい。
それで部屋の出入りは昼休みであれいつでも自由というわけだ。
「・・・ところでそれは何?」
「あぁ気にしないでください。これも捜査の一環ですから。」
俺がスコープを雨宮と榊原に交互に向けているのはやはりどう見ても不自然だろう、
これを平然と捜査といえるお前はすごいよ。
(望遠鏡?捜査と望遠鏡ってなんの関係があるのかしら?)
今のところ雨宮は虚言を言ってはおらず、むしろスコープが気になるらしい。
「榊原先輩は何かありますか?」
「えっ、私?さぁ今日は一度も部室に入ってないし。」
紫菜がさっきからおどおどしている榊原に話を振ったとき心の声がはっきり聞こえた。
(まさかこんなことになるなんて。今日部室で会わなきゃよかった。
英治君は大丈夫かしら・・・もう学校着いたころかな。)
まだ話の全体が見えてこないがどうやらこの榊原が関わっているらしい。
「失礼ですが榊原先輩、午前中はずっと授業を受けてらっしゃいましたか?」
俺の突然の質問に驚いたのかそれとも聞かれたくないことを聞かれたためか
一瞬うろたえたがすぐに答えをくれた。
「午前は2時間目に少し具合が悪くてね・・・・・」
「では2時間目は授業は受けてなかったと?」
「まぁ・・・」
(もしかしてコイツ私を疑ってる!?けどここで本当のこと言うと
まずい、まずすぎる。)
「えっ・・・」
「どうしたの?テルくん。」
「いや・・・、どうも先輩方ご協力ありがとうございました。」
紫菜を今度は俺が引きずりそそくさと二人を残して立ち去った。
5
俺と紫菜は部室棟の裏で秘密裏に話し合っていた。
「心の中を覗いた結果、榊原は何か隠してるんだが直接犯人に関わってるわけではないらしい。」
「えぇ~、それだけじゃよく分かんないよ。一から説明して。」
ということで面倒くさいがどんなことが読めたか詳しく紫菜に説明をした。
「英治君?どうみえてもその人は榊原先輩の彼氏だね、そして二人は
こっそり部室で逢引してたに違いない!じっちゃんの名にかけて!!」
「お前は金〇一の孫なのか。まぁ雨宮の鞄から本人の知らない間に鍵を拝借して返すのは
同じクラスらしいから容易か、けど理由が逢引って。」
「絶対そうだよ、紫菜の女の勘がそう雄叫びをあげてるよ。」
「女の勘なのに雄叫びをあげるのか?」
「ちょっ、ちょっと言い間違えただけ。テルくんは人の揚げ足をとってヌォッ!」
文句を言いかけた紫菜に突如黒い物体が覆いかぶさりそのまま押し倒されるのを
俺は黙って見ていた。
といっても俺はそんなに薄情者ではない相手が痴漢とかだったら助けるが、
紫菜に飛びかかったのは黒いラブラドールレトリーバーだった。
「なんでワンちゃんがこんなところにっ、ちょっと~助けて~。」
顔中を犬にベロベロ舐められてそれはまぁすごいことになっていたのでさすがに手を貸した。
「しっかし、学校に犬がいるなんてな。」
すると幼い少年のような声が聞こえ段々こちらに近づいてくる音がした。
「タロー、タロー、あっタローこんなところにいたのか。」
少年の姿が現れるとタローと呼ばれる犬は彼のもとに駆け寄り頭をすりよせていた。
「君、一体どっから入ってきたの。」
「そこの塀に穴が開いてるんだ。ボールを投げたらこっちに飛んじゃって・・・。
タローなんでも追いかける癖があっていつもはボール取りに行ってすぐ帰ってくるのに、
さっきはなかなか戻ってこなくてだからタロー追いかけてここまで来た。」
5歳くらいの少年は学校の向かいにある公園で犬とボールで遊んでいたらしい。
「けど危ないよ。さっきここにも泥棒さんが入って部屋の中が荒らされてたんだから。」
紫菜が少年に向かってお説教を始めようとしたとき、その言葉を聞いてピーンときた。
「なぁ、さっきボール投げた時もこっちに飛んできたのか?」
「うん、そうだよ。ちょうどここらへんに落ちたのが見えたよ。」
「そうか。」
「どういうこと?もしかして犯人分かったの??」
「いや、まだ確証はないけど。もし俺の考えていることが当たっていたら、
お前の言ってた妄想もあながち嘘じゃないってことになるな。」
そういって俺は少しためらったがスコープを犬に向けた。
はっきりいって犬のキモチまで読めるような代物なのか甚だ疑問だが
知っているのは目の前にいるこの犬だけなのだ。
(ボール、ボール、ボール)
単純な思考をする声が俺の頭の中に流れ込んできてタローの言葉が理解できた。
「高性能だな。」
「ん?」
「よし、犬をテニス部の部室裏まで連れてくぞ。」
「お兄ちゃん、犬じゃなくてタローだよ。」
「あぁすまん。じゃタローを部室まで連れてこう。」
ということで俺の推理を確かめるため三人と一匹の一行はテニス部の部室裏にたどり着いた。
そこには窓が一つあるだけで今はしっかり閉じられている状態であった。
「ここで何するの?テルくん。」
「まぁ少し見てろよ。」
そうして犬・・・ではなくタローを窓の前に座らせた。
改めてスコープでタローの心を読もうと試みると俺の考えは正鵠を射ていた。
(茶色いちっこいのおもしろかったー。)
「茶色い?ちっこい?」
「茶色い、小さいって?」
「紫菜、茶色くて小さくなおかつ動き回るものと言えば?」
「・・・・・ゴキブリ。」
「やっぱりな。」
「もしかして今度こそ犯人が分かったの!?」
「多分な。犯人は・・・・・」
「あぁ!!ちょっと待ってこういう時は解決する前に俺に解けない謎はない!とか
格好いい台詞を言わないと。」
「格好いいのかそれ。」
「うんうん、あっそれと謎解きは被害者の前でしよう。」
「いや、そんなたいしたもんじゃないし・・・」
というそばから紫菜はあっという間に雨宮・榊原らその他テニス部女子部員、顧問を集め
さらには話を聞きつけた野次馬が群がり部室の前は一種の演説会のような盛況になってしまった。
6
「ではみなさん!これからこちらにいるテル探偵が今回の事件の謎を解決してくれました!
よぉーく聞いてください。ではどうぞ!!」
紫菜のものすごい前振りのおかげで俺はこれから話す事件の顛末が話しづらくなってしまった。
けどこんなに人が集まってしまったものだから後には引けない、仕方ない話すか。
「えっと、まずこの事件の不思議な点は何も盗まれていなかったということです。
何故盗られなかったのか、それは盗む目的で犯人が侵入したわけではなかったからです。」
「じゃあ犯人の目的はなんだったのよ。」
雨宮がありえないというような顔でこちらを見ている。
「目的は部室の窓から入ってしまったあるものを取りに来たのです。」
「ちょっと待って、犯人が窓を開けたんじゃないの?
今朝ちゃんと朝練を終わらせた後窓閉めていったのよ。」
「いえ、窓は朝練終了後から昼休みの間に開けられてるんです。
窓が開いてた理由は彼女に聞くのが一番いいと思いますよ。」
俺は雨宮の隣にいた榊原を指さした。
彼女はここに呼び出されたときから顔色が優れなかったが指さされますます青白くなってしまった。
「榊原が?どういうことよ。」
雨宮が榊原の方に体を向き直し問い詰めるようなかたちになった。
「その・・・ごめんなさい。窓を開けっぱなしにしたのは私です。」
ついに榊原は観念して白状した。
「正確に言うと開けっ放しにしたのは榊原先輩ではなく先輩の彼氏です。」
「なっ何でそれを知ってるの!?」
俺の補足した情報に焦る榊原。
「え~、それはですね・・・。」
まさかスコープであなたの心を読み取ったんです、なんてことも言えず困っていたら
紫菜の助け舟が出された。
「それはですね、探偵という職業上守秘義務とかもろもろあるので
どうやって調べたかは言えません。」
助けられたのか分からない船を出されて乗るかどうか迷ったが結局乗った。
「まぁそんなところです。」
「はぁ・・・」
全く納得してないふうであったがここはこのまま話を進めることにした。
「榊原先輩には他校に彼氏がいる、仮に彼氏をE氏と呼びましょう。
そのE氏とは部室で何回か密会していた。他の人には言えない仲だったのでしょうね。
だから人の目のないところで会っていた。もちろん今日もそうだった。」
榊原は黙って聞いていた。俺はそのまま続ける。
「今日の2時間目あなたはこの部室にいた。E氏は窓からこの部屋に入った。
部室の扉から入ると誰かに見られてしまう可能性があるのでいつも先輩が
窓を開けて中に入れてた。ここまでは間違いないですか?」
「はい・・・」
「えっ、ちょっと待ちなさい。ってことは榊原さん私が部室に入った時
あなたがいたのはこれだったの!?」
声のした方向へ振り向くと顧問が口をあんぐりと開けていた。
「なるほど、これが原因だったんですね。」
「テルくん、何がなるほど?」
「話を続けると二人で会っていた際、誰かが近づいてくる音がした。
慌てた先輩はE氏を窓から急いで出しやってきた顧問の先生に何か言い訳をして一緒に退出した。
その時に窓を閉めるのを忘れてしまった。」
「今までの話だけだと犯人の正体が全く見えてこないんだけど。榊原が犯人ではなさそうだし。」
雨宮の意見はもっともであった。
「はい、榊原先輩もその彼氏のE氏も犯人ではありません。犯人はそのあとに登場します。
犯人はたまたま窓が開いてたこの部屋に落ちたボールを取りに来たんです。」
「ボール?つまり犯人はボールを探すために荒らしたの?
でも探すだけでこんなに泥だらけにする必要ないんじゃないの?」
先程のカミングアウトから黙っていた榊原がようやく口を開いて発言した。
「そうです。探すだけだったら荒らす必要はありません。
しかしその時ゴキブリが部屋の中に現れました。」
「ごっごきぶりっ・・・・・。」
いかにも女子というリアクションをする榊原。
「犯人には動くものを追いかける癖がありましてゴキブリを追ううちに部屋の中が泥だらけに
なってしまったのです。」
「追いかける癖?退治しようとしたんじゃなくて?どんな人間よ。」
なかなか目の付け所がいいことを雨宮がいう、さすが部長。
「はい、ぶっちゃけ犯人は人間ではなく犬です。」
「いぬぅぅぅううう!!」
紫菜のひときわ大きな声がみんなの驚く声をかき消した。
「ボールを追いかけて部室に入った犬がゴキブリを発見し、追いかけていくうちに
あのようなことになったんです。ちゃんと証拠も証人もいますよ。」
横にいた少年とタローを俺の前に立たせた。
「えっと~僕がこっちにボールを投げてタローが取りに行ったの。
そしたらタローがボールとコレを・・・・・」
「キャーーーーーー!!!!!!!!」
少年が握っていた手をひろげると女子生徒から数々の悲鳴が聞こえた。
そこには潰れたゴキブリが息絶えていた。
「これでお分かりになってくれたの思うのですが、結局こういうことだったんです。」
ということで事件は無事解決し、幕を閉じた。
7
「これで一件落着。テルくんの探偵としての初仕事も大成功だったし。」
「おい、俺は一言も探偵になるなんて言ってないぞ。」
「えぇー、だってこんな大勢の前で推理を披露してもう周知の事実だよ。」
「あれはそういう流れだったからであって・・・」
「それにもう探偵団として生徒会とか先生にも承認してもらったし。」
「はぁ!?いつの間に!!」
帰りの支度をするため教室に戻ろうとする廊下の途中で大声を上げてしまった。
帰ろうとしていた生徒が一斉にこちらを向いた。
痴話喧嘩だと勘違いしてニヤニヤして横を通り過ぎていく生徒にガンをとばした。
「おぉ二人とも、今帰りか?」
そんななか担任の先生が俺らを見つけ呼び止めた。
「あっ先生、これから探偵団の方よろしくお願いしますね。学校での困りごとは紫菜たちにお任せ。」
「おう、頼りにしてるよ。これから頑張ってくれホームズにワトソン君。」
「先生まで!?」
「テレパシースコープ探偵テル誕生だぁ!」
「輝行に紫菜、二人とも頑張れよ。先生は応援してる!」
そんなこんなで俺こと輝行は成り行き探偵となってこれからいろんな騒動に巻き込まれていくのであった。