第二十四話 奇跡ではない
吹雪はやむ気配を見せなかった。風は山肌を越えて容赦なく吹きつけ、二人の修道服を激しくはためかせる。凍りついた土を踏みしめるたび、乾いた音だけが静かな冬の野に響いた。空は鉛色に曇り、太陽の位置さえも分からない。世界は白と灰色の二色で塗りつぶされていた。
レオは黙って歩いていた。父フランチェスコの言葉が、何度も胸の中で繰り返される。
――そこに、完全なる喜びはない。
聖なる生涯でもない。奇跡でもない。学問でもない。知識でもない。宣教の成功でもない。では、いったい何なのだろう。彼の頭の中は、疑問でいっぱいだった。しかしその疑問は、疑問であること自体が許されないような重みを持っていた。父はいつもそうだった。問いを投げかけ、答えを保留し、弟子たち自身が答えを見つけるのを待つ。それが彼の教え方だった。
考え込んでいると、前を歩くフランチェスコが再び声を上げた。
「レオ兄弟。」
「はい、父よ。」
「たとえ小さき兄弟が、あらゆる国の言葉を話し、あらゆる学問を修め、聖書の深奥を知り尽くしたとしても。」
レオは耳を傾ける。言葉を話すこと。学問を修めること。聖書を知ること。それらはすべて、修道士としての理想的な姿だった。
「未来を見通し、人の心の内や魂の秘密までも見抜くことができたとしても。」
雪が横殴りに舞った。フランチェスコは歩みを緩めることなく続けた。
「そこにも、完全なる喜びはない。」
レオは思わず目を閉じた。修道院には学識豊かな兄弟もいる。神学を究め、多くの人々から尊敬される者もいる。自分はそこまで学んではいないが、それでも神を深く知ることこそ、修道士の目指す姿なのだと思っていた。聖書を知ることは神を知ることであり、神を知ることは神を愛することに通じる。そう信じていた。
だが父は、それさえ違うと言う。知識は喜びそのものではないのか。真実を知ることが、人を幸福にするのではないのか。しかし父は違うと言う。その確信に満ちた口調が、レオの心に深く突き刺さった。
二人はしばらく黙って歩いた。やがてフランチェスコは、少しだけ空を見上げた。雪が彼のまつげに積もり、彼はそれをまばたきで払った。
「レオ兄弟。」
「はい。」
「たとえ天使の言葉を語り、星々の運行を知り、草木の力を知り、この世界のあらゆる被造物の本質を理解したとしても。」
フランチェスコは足元の雪を見つめる。
「鳥も、魚も、獣も、人も。」
「樹木も、石も、水も。」
「神がお造りになったすべてを知り尽くしたとしても。」
静かな声が、吹雪の中へ溶けていく。
「そこにも、完全なる喜びはない。」
レオは小さく息を呑んだ。知識とは、人を神へ近づけるものではないのか。神の御業を知れば知るほど、人は神を讃えることができるのではないのか。その疑問が胸に浮かぶ。しかし不思議なことに、フランチェスコの言葉を疑う気持ちは起こらなかった。理解はできない。それでも、この人は真実だけを語っている。長く共に旅をしてきたレオには、それだけは確信できた。
吹雪の向こうに、小さな森が見えてきた。裸の木々が雪を冠し、まるで古い聖人のように立っている。二人はその脇を通り過ぎながら歩き続ける。フランチェスコの足跡は、雪の上に小さく、しかし確かに刻まれていた。
するとフランチェスコは、これまでより少し強い声で言った。
「レオ兄弟よ。」
「はい、父よ。」
「たとえ小さき兄弟が、この世のあらゆる異教徒をキリストのもとへ導くことができたとしても。」
レオは思わず顔を上げた。異教徒を改宗させること。それは宣教者にとって、この上ない実りではないか。多くの魂を救うこと。それは、彼らの使命の最大の成果であり、神への最大の奉仕であるはずだ。
しかし、フランチェスコは静かに微笑んだ。
「そこにも、完全なる喜びはない。」
その言葉だけを残して、再び歩き始める。レオはもう何も言えなかった。聖性も。奇跡も。学問も。知恵も。宣教の成功も。父は、そのすべてを静かに手放していく。胸の中に積み上げてきた「尊いもの」が、一つひとつ雪のように静かに溶けていくようだった。
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長い沈黙が続いた。レオは頭の中で、父の言葉を何度も反芻した。奇跡でも、知識でも、成功でもない。では何が——? その問いは、彼の心の中で大きくなっていった。
やがてレオは耐えきれなくなり、歩みを速めてフランチェスコの隣へ並んだ。雪の中で息が白く濁る。彼の声は、戸惑いと切実さで震えていた。
「父よ。」
フランチェスコは顔をそらさなかった。その横顔は穏やかで、風雪の中にあっても変わらぬ静けさを保っていた。
「どうか、お教えください。」
「それでは……完全なる喜びとは、一体どこにあるのでしょうか。」
その問いは、彼の魂の奥底から湧き上がってきたものだった。彼はもう、推測や想像では満足できなかった。父の口から直接、その答えを聞きたかった。
フランチェスコは足を止めなかった。ただ穏やかに微笑み、前方に霞むポルツィウンコラへの道を見つめていた。その微笑みは、答えを知っている者の微笑みだった。しかし同時に——その答えを言葉にするのは、まだ早いとも言っていた。
「もう少し歩こう、レオ。」
フランチェスコはそう言って、また歩き始めた。
「答えは、もうすぐそこにある。」
レオはその背中を追いかけた。雪はまだ止まない。しかし彼の心には、一つの確信が生まれ始めていた。父は必ず、答えを教えてくれる。その時が来るまで、自分はただ歩き続ければいいのだ。
風が吹いた。雪が舞い上がる。その白い世界の中で、二人の修道士は、黙って歩き続けた。
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*この章は、「完全なる喜び」とは何かを巡る、フランチェスコとレオ兄弟の対話の続きである。フランチェスコは、人間が考えうるすべての偉大な業績を挙げながら、それらのどれにも完全なる喜びはないと繰り返す。それは、彼がこれらの業績を軽んじていたからではない。むしろ逆である——これらの業績は素晴らしい。しかし、それらは手段であって、目的ではない。真の目的は、神と共に生きることにある。そして、その神との交わりは、成功や名声や力の中にはない。むしろ、失敗や屈辱や弱さの中にこそ、深く隠されている。これを理解するには、さらに深い旅が必要だった。そして、その旅の終わりに、フランチェスコは一つの真実を語ることになる。その真実は、彼の生涯の集大成であり、すべての兄弟たちへの遺産となる。*




