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フランチェスコとその友人たち  作者: はまゆう


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第十話 傲慢なるエリアス

青年は静かに微笑んだ。


旅人の姿をしている。肩には埃をかぶった外套。長い道を歩いてきた者の靴。革は擦り切れ、底は薄くなっている。何百マイルも歩いてきた証だった。しかし、その顔には疲れがなかった。日焼けしているが、その肌は健康そのもの。むしろ不思議な光が宿っていた。内側から何かが輝いているかのような。ろうそくの灯りが透けて見える陶器のように、彼の全身からは柔らかな光が溢れ出ていた。


修道兄弟マッセオは、なぜだか落ち着かない気持ちになった。この青年は、ただの旅人ではない。そんな予感がしたのである。彼は多くの旅人を見てきた。巡礼者、放浪者、商人、役人——様々な者がこの門を叩いた。しかしこの青年は、そのどれとも違っていた。何か——言葉にできないほどの重みが、彼の存在そのものにあった。


「まず三度叩き、相手が来るまで静かに待つのです」


マッセオは穏やかに説明した。自分の声が、なぜかいつもより丁寧になっていることに気づいた。


「修道士たちは、祈りの最中かもしれませんから」


青年は頷いた。その動作は優雅で、まるで舞踏の一節のようだった。


「なるほど。良い教えです」


その言葉には、どこか深い響きがあった。教えられた側が、むしろ教える側に何かを返しているような。マッセオはその逆説的な感覚に、一瞬戸惑った。


青年は続ける。


「私は修道兄弟フランチェスコに会うため、長い旅の途中でここへ立ち寄りました。ですが彼は今、森で祈っておられるのでしょう」


「その通りです」


「ならば邪魔はしたくありません。代わりに、修道兄弟エリアスへ会わせてください。学識豊かな方だと聞いておりますので」


その言葉には、皮肉も含意もなかった。ただ、純粋な事実として。彼はエリアスの評判を知っていて、その知識を求めている。それだけだった。


マッセオは頷き、滞在処の中へ戻った。


---


エリアスは机に向かい、書き物をしていた。


他の兄弟たちとは違い、彼は読み書きに優れていた。フランチェスコの初期の仲間たちは、ほとんどが無学だった。貴族の出身や商人の出身でも、当時の教育は限られていた。しかしエリアスは違った。彼は文字を読み、書き、計算ができた。それは当時の修道会にとって、貴重な資産だった。


修道会が大きくなれば、規則が必要になる。記録も必要になる。秩序も必要になる。エリアスは、そうした現実を誰より強く考えている人物だった。彼の頭の中には、常に未来があった。今の貧しさや自由も大切だが、組織が大きくなれば、それを支える枠組みが必要だ——彼はそう信じていた。


「エリアス兄弟」


マッセオが声をかける。


「門に旅の青年が来ています。あなたに話があるそうです」


エリアスは顔を上げた。ペンを置き、少し眉をひそめた。


「私に?」


「はい」


その声には、確かに用事があると伝えるだけの響きがあった。


しかし次の瞬間、彼の表情は露骨に曇った。眉間の皺が深くなり、口元がへの字に曲がる。彼は不機嫌そうにペンを再び手に取った。


「なぜ私が、見知らぬ旅人の相手をせねばならん」


その声には苛立ちが滲んでいた。彼は今、重要な仕事をしていたのだ。修道会の規則の草案。それを邪魔されたくない——というより、むしろ、自分の時間を他人に奪われることが許せなかった。


マッセオは困ったように言う。


「ですが、どうしてもあなたへ尋ねたいことがあると」


「断れ」


「しかし……」


「私は忙しい」


マッセオは言葉に詰まった。


嘘はつきたくない。だが、「怒っているから行かない」とも言いたくない。彼はその場に立ち尽くし、何か適切な言葉を探したが、見つからなかった。


その時だった。


再び門が鳴った。


バン!


バン!


バン!


先ほど以上に激しい音だった。扉の木が悲鳴をあげ、蝶番がきしむ。若い修道士たちが顔をしかめる。あまりに乱暴な叩き方に、誰かが「何だ?」と声を上げた。


エリアスも苛立ったように舌打ちした。ペンを机に叩きつける。インクが跳ね、紙の上に黒い染みを作った。


「なんという無礼な男だ」


彼は呟いたが、立ち上がろうとはしなかった。


マッセオは再び門へ向かった。心の中で、今度こそ上手く説明しようと準備しながら。


扉を開けると、青年は静かに立っていた。不思議なことに、あれほど乱暴に門を叩いたはずなのに、その顔には怒りも焦りもない。ただ穏やかだった。まるで、さっきの騒音は別人が起こしたかのように。


「修道兄弟エリアスは?」


青年が尋ねる。その声は変わらず優しい。


マッセオは返答に迷った。正直に「来てくれません」と言うべきか。それとも、もう少し柔らかい言い方を探すべきか。彼の頭の中は、様々な可能性でいっぱいになった。


青年はその沈黙を見て、すべて悟ったようだった。マッセオの表情から、エリアスが拒んだこと。彼が来ないこと。そして、マッセオがそれを伝えられずにいること——すべてを。


「ならば、修道兄弟フランチェスコへ伝えてください」


青年は静かに言った。


「私は彼と話すために来ました。ですが祈りを妨げたくはありません。ですから、エリアスをここへ来させるよう、彼から命じていただきたいのです」


---


森の奥では、フランチェスコが天を仰いで祈っていた。


木々の隙間から、白い光が落ちている。その光の中に浮かぶ埃が、きらきらと輝いている。彼はその光を見つめながら、深い静けさの中に浸っていた。世界のすべての音が、遠くに聞こえる。鳥の声も、風の音も、自分の鼓動さえも——すべてが神の一部のように感じられた。


マッセオはそこへ辿り着き、門前で起きたことをすべて話した。青年のこと。エリアスが拒んだこと。再び激しく門が叩かれたこと。そして、青年がフランチェスコに伝えてほしいと言ったこと——すべてを。


話を聞き終えても、フランチェスコは顔を上げなかった。彼の目は、なお天を見つめている。瞼の裏で、何か——見えないものを見ているかのようだった。


しばらく沈黙が続いた。森の静けさが、マッセオの言葉の余韻を包み込む。風がフランチェスコの衣の裾を揺らした。


やがて彼は静かに言った。


「行って、エリアスに伝えなさい」


その声は穏やかだった。しかしその奥には、確かな重みがあった。


「従順の義務として、ただちに、あの青年のもとへ行くように、と」


---


その言葉を聞いた瞬間、エリアスの顔が険しくなった。


彼の頬が引きつり、目が細くなる。フランチェスコからの伝言——「従順の義務」という言葉が、彼の pride を深く傷つけた。自分は修道会の重要な一員だ。規則を作り、組織を整えている。そんな自分が、なぜ見知らぬ旅人のもとへ走らねばならないのか。


彼は勢いよく立ち上がる。椅子が後ろに倒れかかったが、彼は気にしなかった。


「……分かった」


だがその声音には、従順というより怒りがあった。彼は乱暴に門へ向かい、激しく扉を開いた。蝶番が軋み、扉が壁にぶつかる音が響く。


夕陽の中、青年は静かに立っている。西日が彼の後ろから差し込み、その輪郭を金色に縁取っていた。まるで絵画の中の人物のように。


エリアスは吐き捨てるように言った。


「私に何の用だ!」


その声には、明らかな敵意が込められていた。彼はこの青年を、最初から敵と見なしていた。自分の時間を奪い、自分の権威を軽んじる者——それ以外の何ものでもなかった。


青年は少しも動じなかった。エリアスの怒りに驚くこともなく、ましてや恐れることもない。むしろ哀れむような目で彼を見る。その目は深く、澄んでいて、エリアスの内側を見透かしているかのようだった。


「修道兄弟よ」


穏やかな声だった。


「それほど怒りに身を任せてはいけません。怒りは、精神を曇らせます」


エリアスの眉が吊り上がる。その言葉が、さらに彼の怒りを煽った。説教されること。見知らぬ旅人に、自分の在り方を指摘されること。それが我慢ならなかった。


「用件を言え」


彼は冷たく言い放った。


青年は静かに尋ねた。


「福音に従う者たちが、出されたものを何でも食べることは、主が弟子たちへ命じられた通り、許されることでしょうか」


エリアスは短く答えた。


「当然だ」


それは正しい答えだった。福音書には、弟子たちは何でも食べなさいと書かれている。律法の食物規定に縛られるな、と。


青年は続けた。


「では、福音の自由に反する掟を、他人へ課すことは許されるのでしょうか」


その瞬間、エリアスの顔色が変わった。先ほどまでの怒りが、一瞬にして氷のような硬さに変わった。


それはまさに、彼自身のことだったからである。彼は最近、兄弟たちへ厳格な規律を定めていた。肉食の禁止。細かな制約。本来の福音にはない規則だった。修道会が乱れることを恐れていたのである。自由すぎる生活が、やがて規律の崩壊を招く——そう信じていた。


だが青年の問いは、その行為そのものを突き刺した。あなたは福音の自由を否定している。自分が自由であると思いながら、他者を縛っている。その矛盾を、彼は指摘されたのだ。


エリアスは苛立ちを隠せなかった。動揺が顔に出ていた。目が泳ぎ、唇が震えた。


「そんなことは百も承知だ」


声が上ずった。自分でも分かるほどに。


そして冷たく言い放つ。


「だが、お前のような者へ答える義理はない。立ち去れ」


青年は静かに彼を見つめた。その目には怒りがなかった。ただ深い悲しみだけがあった。それは、父が愛する子の誤りを見つめるような悲しみだった。


「私なら、あなたより良い答えを出せます」


その言葉が、エリアスの神経を逆撫でした。良い答え? 自分より? この見知らぬ旅人が? 何の権限もない、ただの放浪者が?


「失せろ!」


彼は乱暴に門を閉めた。木の扉が激しく鳴り響く。その音は、まるで彼の心の状態を表すかのように、荒々しく、醜かった。


沈黙。滞在処の中は重苦しかった。誰も言葉を発しなかった。エリアスの背中は怒りで震えている。他の兄弟たちは、何が起きたのか分からず、ただ戸惑っていた。


---


しかし、しばらくしてから、エリアスの胸に奇妙な不安が広がり始めた。


青年の問いが、離れないのである。


自分の掟は、本当に正しかったのか。


福音の自由——それは自分が誰よりも大切にすべきものではなかったか。フランチェスコが説いた、あの「何も持たない自由」。それを、自分は形だけの規則で縛ろうとしていなかったか。


あの青年は、なぜあれほど落ち着いていたのか。怒られることを知っていて、それでも問いを投げかけた。彼には何か——確かなものがあった。自分の正しさを信じる確信が。


そして、「私ならもっと良い答えを出せます」という言葉。


それはただの挑発ではなかった。青年は本当に、より良い答えを持っているように見えた。自分がまだ見つけていない、より深い真理を。


エリアスは急に立ち上がった。


机の上の書き物は、もう気にならなかった。規則の草案も、組織の計画も、すべてが急に色褪せて見えた。


門へ向かう。勢いよく開ける。


だがそこには、もう誰もいなかった。


夕暮れの空は茜色から紫へと変わり始めている。遠くの山々が暗い影を落とし、風は冷たくなっていた。門の前には、ただ乾いた土と、数枚の落ち葉だけが残されていた。


風だけが、夕暮れの荒野を吹き抜けていた。その風は冷たく、エリアスの頬を撫でた。彼はその風に、何か——自分を見捨てた者の背中を見るような気がした。


その時だった。


森の方から、足音が聞こえた。ゆっくりと、しかし確かな足取り。落ち葉を踏みしめる音が、静寂の中で響く。


フランチェスコだった。


彼は戻ってくるなり、雷のような声で叫んだ。


「なんということをしたのだ、エリアス!」


兄弟たちは震えた。その声には、普段の優しさは微塵もなかった。フランチェスコがこれほど激しく怒る姿を、誰もほとんど見たことがなかったのである。彼はいつも穏やかだった。誰に対しても、どんな状況でも、怒りを表に出すことはほとんどなかった。しかし今——その顔は悲しみと怒りで歪んでいた。


「お前は、私たちを教え導くために来られた聖なる天使を追い払った!」


その言葉は、エリアスの胸に突き刺さった。天使——あの青年が? まさか。しかしフランチェスコの確信に満ちた口調は、彼の疑いを許さなかった。


エリアスは凍りついた。その場で、まるで石像のように。彼の顔から血の気が引いていた。


フランチェスコの顔は悲しみに満ちていた。怒りを通り越して、深い深い悲しみ。彼はエリアスを見つめながら、まるで予言するかのように言った。


「私は恐れている。お前の傲慢さが、いつか、お前自身を修道会の外へ追いやることを」


その言葉は、エリアスの未来を予告するかのようだった。後に彼は実際に、修道会を離れることになる。自分の野心と傲慢さのために、フランチェスコの理想を裏切り、別の道を歩むことになる。


しかし今は——まだその時ではなかった。


風が吹いた。夕暮れの空は暗くなり始めていた。最初の星が、東の空に淡く輝き始めている。


誰も言葉を発しなかった。滞在処の中は、重い沈黙に包まれていた。兄弟たちはそれぞれ、何かを考えているようだった。ある者はエリアスを非難し、ある者は彼を哀れみ、ある者はただ戸惑っていた。


ただエリアスだけが、閉ざされた門を見つめていた。その向こうにはもう、誰もいなかった。しかし彼の胸には、あの青年の問いが、まだ響いていた。


「福音の自由に反する掟を、他人へ課すことは許されるのでしょうか」


その問いに、彼は答えられなかった。


おそらく——これからも、ずっと答えられないままなのかもしれない。


その夜、エリアスは長く眠れなかった。


彼は何度も起き上がり、窓の外を見た。暗闇の中に、あの青年の姿を探して。しかしそこには何もなかった。ただ、風が吹き、星が輝いているだけだった。


彼は自分の胸に手を当てた。そこには——まだ、何かが引っかかっていた。それは怒りであり、不安であり、そして——もしかしたら、希望だったかもしれない。


---


*エリアス兄弟は、後にフランチェスコの後継者として修道会を率いることになる。しかしその在り方は、しばしばフランチェスコの理想と対立した。彼は組織化を重視し、規則を重んじ、修道会の権力を拡大しようとした。それは必要なことであったかもしれない。しかし同時に——それは、「小さき花」の精神から遠ざかることでもあった。この門前での出来事は、その兆候であった。エリアスの中には、すでに傲慢の種が芽生えていた。そしてその種は、やがて彼をフランチェスコの遺志から遠ざけることになる。この物語は、聖人であっても人間であることを示している。完璧な者はいない。誰もが過ちを犯し、誰もが成長の過程にある。重要なのは——その過ちに気づき、悔い改めることができるかどうかである。エリアスはその機会を失った。しかし私たちは、彼の過ちから学ぶことができる。アメン。*

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