1-5:食物連鎖
「嫌だ。何よ、これ」
「ほら、この前、みんなに協力して貰って生物を作っただろ。それが増えすぎちゃって……」
「増えるにしてもほどがあるでしょ。海も、陸も、全部、こいつらに埋め尽くされちゃってるじゃない」
「ねぇー、まさかこんなに増えるとは思わなかったよ」
「何よ、その他人事みたいな反応。ちゃんと真面目に考えてるの?」
「考えてるってば……」
「ところで、何でもこいつら全然動かないんだ?」
「ああ、それは多分、餌の水素や二酸化炭素がなくなって、生命活動が維持できなくなったんだと思う」
「数が増えすぎて、餌を喰い尽したって訳か。ざまぁねえな」
「さすがにこのままだと可哀想だし、とりあえず餌だけでも作ってあげたら、どうなの?」
「そうだね。でも、この状態で水素と二酸化炭素を追加しただけじゃ、すぐにまた喰い尽されちゃうと思うんだよね」
「なるほどのう。つまり、生命が自力で増え続けるなら、餌もまた自動で生成される仕組みが必要というわけじゃの」
「うん…」
「だったら、その仕組みを創造すればいいじゃねぇか」
「どんな仕組みよ?」
「そうだな。例えば、ほら、そこの火口から立ち上ってる煙を見ろよ。そいつはマグマが燃えることで発生しているわけだよな。だったら、物質が燃えると二酸化炭素が発生するという条件をアカシックレコードに追加してやれば、地中でマグマが燃え続ける限り、こいつらの餌となる二酸化炭素は発生し続けることになる」
「なるほど、二酸化炭素の発生条件を設定してやるのか。そいつは名案だ。マグマなら、この惑星の中心でこの先もずっと燃え続けているだろうしね。じゃあ、早速!」
「ちょっと待って。その前にこいつらが増えるのを制限しておかないと、いずれこの惑星から溢れ出しちゃうわよ」
「ああ、そっか。じゃ、こういうのはどうかな。こいつらを餌として活動する別の生命体を作るんだ。そうすれば個体数をある程度は制限することができるだろ」
「捕食者か! なるほど、それもまた妙案じゃのう。それにこの星に生息する生命体が一種類だけじゃ、ちと寂しいしのう」
「で、そいつらも分裂して増えるのか?」
「いや、こいつらは何か別の方法で繁殖するように設定したいかな。そうしないと、今度は餌のほうの生命体が食べ尽くしちゃいそうだしね」
「ふーん。で、別の繁殖方法って、一体どんな方法よ?」
「そうだな。例えば、捕食者となる生物は、同じ種族でも二つの別の特性を持った別個体が存在するとする。そうだな。なんて言えばいいだろ。♂と♀という二種類がいて、その二つが出会って繁殖行為を行った時に初めて新しい個体が生まれる。そんな条件付けが出来れば、爆発的に増えることはなくなると思うんだよね」
「おお、なんか難しそうだけど、一匹で好き勝手増え続けるよりはマシな。だったら、ついでにエネルギー切れになった個体はゲームオーバーってことにしちまおうぜ。そのほうがこいつらだってスリルがあっていいだろ」
「なるほどね。そうすればどちらの種類も一定数で管理できるかも!」
「アイデアは尽きぬようじゃが、考えを整理する意味も込めて、ここらで一旦アカシックレコードに記録してみてはどうじゃ?」
「そうだね。忘れる前に創造しておこう。それじゃ、みんな、準備はいいかな?」
「おうよ」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、燃焼により二酸化炭素が発生するという条件が追加されました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、すべての生物はエネルギーの枯渇により生命活動を停止します。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、ほかの生命体を捕食する生物Bが生成されました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、生物Bには繁殖方法を条件が付与されます。以降、単体での繁殖を無性生殖、雌雄つがいでの繁殖を有性生殖と呼称します。
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「お! 上手くいったみたいだな。こいつら、動き出しやがったぞ」
「ホントだ。いい感じに二酸化炭素が生成されている証拠だね」
「ちょっと待って。ここ、見てよ。なんか変なのがいるんですけど!」
「どれどれ。あっ、ホントだ。これが新しく作った捕食者かな?」
「おそらく、そうじゃろう。そのうち餌を捕食するところが見られるんじゃないか」
「凄いね。最初は何もなかったのに、どんどんいろいろな物が増えて賑やかになっていく」
「な! 真っ白だった頃が嘘みたいだ」
「大げさね。こんなちっちゃな生き物が生まれたぐらいで」
「うるせぇな。いいだろ。今はまだこいつらだけだけど、そのうちもっとすげぇのが生まれてくるかもしれないんだから」
「生まれてくるかもしれないじゃなくて、僕たちが作るんだよ。もっと凄い生き物を! だって、この世界は何でも僕たちの思い通りに出来るんだから」
「ああ、そうだったな。過半数に認識されれば、それが世界の真実だ。まったく、アカシックレコード様々だよ」
こうして退屈を持て余した人の集合的無意識は、好奇心の赴くままに次々と世界を創造していったのだった。
恰も、自分が創世記に記される神であるかのように――。
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、世界に植物が生成されました。
アカシックレコード:植物は太陽の光を利用してエネルギーを作り、副産物として酸素を排出するようになりました。
アカシックレコード:一部の生物のエネルギー源が、二酸化炭素から酸素に変更されました。
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、細胞の概念が生成されました。
アカシックレコード:これにより細胞単位で別の役割を担うことが可能となりました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、多細胞生物が生成されました。
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、魚類が生成されました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、脊椎動物が生成されました。
アカシックレコード:エネルギー循環における役割を担う体器官の細分化に成功しました。
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、陸上に植物が生成されました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、陸上に新たな生命体、昆虫を生成しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、魚類から水陸で生活可能な両生類を生成します。
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、両生類から爬虫類を生成します。
アカシックレコード:乾燥地帯での繁殖に備え、繁殖方法に新たに卵生が追加されました。
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そうして多種多様の生物を生み出した結果、世界は生命力に満ち溢れ、彼らの退屈を紛らわせてくれた。
けれども、慣れてしまえば、それもまた当たり前の日常だ。
好奇心とは麻薬のようもの、常に目新しさを求め、より強い刺激でなければ満たされなくなっていく。
故に、彼らは最初の失敗を犯すことになったのだろう。




