1-4:生命のゆりかご
「うーん、上手くいかないなあ…」
「何じゃ。今度は一体どうしたというんじゃ?」
「さっきみんなに手伝って貰って、生物の元を作ったでしょ」
「ああ、何じゃったかな。なんか小難しい名前の…」
「アミノ酸っていう有機物だよ」
「おお、そうじゃった、そうじゃった。それで一体何が上手くいかないというんじゃ。その有機物とやらは、みんなの共通認識としてアカシックレコードに記録されたはずじゃろうが」
「うん。おかげで生命の大元はできたはずなんだけど、それだけじゃ生物としての形を維持できないみたいなんだよね」
「はて、形を維持できないとは?」
「それ自体はちゃんと生きてはいるみたいなんだけど、すぐに水に溶けるみたいに散らばって形を失っちゃんだ」
「何じゃ。だったら、その有機物やらが一定の形を維持できるようにしてやればいいだけじゃろうが」
「うん。まぁ、そうなんだけど……。でも、どうやって?」
「そんなの、袋でも箱でも好きなものを創造してやれば良かろうが」
「ああ、そっか。そうだね。ごめん、みんなもう一回だけいいかな」
「何よ、もう面倒臭いわね。一回で全部済ませなさいよ」
「まぁ、まぁ、いいじゃねぇか。どうせ暇なんだし。で、今度は何を創造すればいいんだ?」
「えーっとね。さっき作った有機物を一定の形に留めておく為の容器のようなを作りたいんだ。できれば、生物を活動することを想定した伸縮性の高い袋のような物を」
「はいはい、袋ね」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、有機物の一部を被膜で包みました。
アカシックレコード:これにより世界に生物が誕生しました。
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「やった! 成功だ。見てよ、ほら。半透明の袋が自分で動いてるよ」
「ほう、こりゃ凄いのう。この小さいの、自分の意思で動いとるのか」
「多分、そうだと思う。可愛いね」
「そう? 別に可愛くはないでしょ。ってか、むしろ気持ち悪くない?」
「そんなことないよ。ほら、こいつなんか体をクネクネさせて一生懸命泳いでるよ」
「ホントだ。こんなにちっこいのに、そんなに激しく動いて疲れないのかね」
「確かにずっとこんなに動いてたらすぐにバテちゃいそうだよね」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、世界にエネルギー消費の概念が生まれました。
アカシックレコード:これにより世界に生命活動にエネルギー消費の条件が付与されます。
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「あれ、何だ? 今、アカシックレコードに新しく何かが追加されたみたいだけど…」
「エネルギーがどうのこうの言っておったのう」
「ねぇ、そんなことよりも見てみなさいよ。このちっちゃいの、急に動かなくなっちゃったわよ」
「ホントだ。それも一匹だけじゃなく、ほかの個体もどんどん動かなくなっていく」
「疲れちゃったのかな?」
「生物が動き続けるには、その為の燃料が必要ってこと?」
「何よ、それ。もうマジで面倒臭いわね。ほら、今度は何を創造すればいいの?」
「え? そんなの僕に聞かれてもわからないよ。何があれば、こいつらは動き続けられるだろ」
「別に難しく考えることはないじゃろ。共通認識が現実になるんじゃったら、この物質があれば、こいつらは動き続けられるという条件を追加してやればいい」
「なるほどね。それじゃ、早速!」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、世界に水素と二酸化炭素が生成されました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、生物は酸化還元反応によって直接的にエネルギーを取り込む機能が付与されます。
アカシックレコード:これにより生物はエネルギーの自己補給が可能になりました。
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「やった! 上手くいったみたいだ」
「ホントだ。こいつら、また動き出しやがった」
「良かったじゃない」
「なぁ、どうせならもっと数を増やしておこうぜ。さすがにこれだけじゃ少なすぎるだろ」
「そうだね。世界はこんなに広いんだし、もっとたくさんいたほうが賑やかで楽しいよね」
「ちょっと待ってよ。だったらこの際、自分たちで勝手に増えるようにしちゃいましょうよ。数を増やすたびに付き合わされたんじゃ堪らないもの」
「おっ、それいいね。おまえにしてはなかなか名案じゃないか」
「うるさいわね。で、今度はどんな条件を追加すればいいわけ?」
「そうだな。単純に一つの個体が二つに増えることができれば問題ないと思うけど」
「自分がもう一人か、それはまた、奇怪で面白いのう」
「よし、じゃぁ、早速やってみようぜ」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、世界に自己複製分子が生成されました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、生物に分裂の機能が付与されます。
アカシックレコード:これにより生物は単体での繁殖が可能になりました。
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「成功したのかな?」
「どうじゃろうかのう」
「まぁ、放っておけばそのうちわかるだろ」
「そうね。成功してたら、勝手に増えるわけだし」
「あれ!? そういえば、後の二人はどうしたの? 今日はまだ一度も見かけていないけど」
「さぁな、二人ともマイペースだからな」
「もともと一人は何考えてるかわかんないような奴だし、いいんじゃない。放っておけば」
「うん。でも、初めて作った生物だし、せっかくだから二人にも見せてあげたかったのになぁ……」
「何、次に顔を出した時にでも見せてやればいいじゃろうて」
「そうだね」
「って、おい、そんなことより見ろよ。コイツ、自ら二つに千切れやがったぜ。これって増えてるってことじゃねぇのか」
「うわぁ、ホントだ。気持ち悪っ!」
「凄いね。本当に自分の力で増えてるよ」
「大きさは半分になっちまったけどな」
「ちょっと待ってよ。それじゃ、この子たち、増えるたびに小さくなっちゃうってこと?」
「まさか、そのうち元の大きさに戻るだろ」
「それも含めて今後の動向を要観察だね。何しても、みんな協力してくれてありがとう。これでまた楽しみが増えたよ」
「へいへい、子供は無邪気で羨ましいね。こんなので楽しめるんだから」
「ああー、またそうやって子ども扱いする。みんなだって何だかんだ楽しそうにしてたじゃないか」
「そうじゃのう。また何か面白いことを思いついたら声を掛けとくれ」
「うん。とりあえずこの子たちの数が無事に増えたら報告するよ」
「はいはい。それじゃ、今日はもう解散ってことで」
こうして生命の祖先となる最初の生物は、この世界に誕生した。
しかし彼らはまだ知らない。
それらが後に彼らの存在をおびかす脅威となることを――。




