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アカシックレコード  作者: 八代 秀一
文明開化編

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18/18

3-2:ヤハウェの神託

その日、私はまた夢を見た。

私たち人間をお創りになった神様の夢だ。


 夢の中で神様は言った。

私たち人間の中に神を敬わず、その意に背く者たちがいると――。


 愚かなことだと思った。

この世界は神様によって創られたものであり、生きとし生けるものすべては神様を信仰することで存在を許されているのだ。

事実、神様が初めて私の夢に現れた時に言っていたではないか。

――信じる者は救われる、と。


 にもかかわらず、その者たちは神様に反旗を翻した。

そればかりか自らを進化の頂点と称し、事もあろうに神に取って代わろうと目論んでいるというのだ。

傲慢にもほどがある。

かつて神に反逆とされる創世記のアダムに勝るとも劣らない愚行。

故に、その報いを受ける時が今、こうしてやった来たというわけなのだろう。


 夢のお告げで神様は言った。

人の世の罪は、人によって裁かれるべきだと――。


 なるほど、それならば神様の代行者として我々に白羽の矢が立ったことにも頷ける。

だが――、


「裁くとは、具体的に何をどうすればよろしいのでしょうか?」


 夢の中で私は神様に尋ねた。

私たち人間に思考という概念はない。

いや、そもそもそういった機能が備わっていないのだろう

考えるのはすべて神様の役目であって、私たち人間はその意に従うのみ。

自ら考えて行動することなどひとつもないし、その必要性も感じない。

だからだろう。

ひと言に裁けと言われても、私にはその方法が皆目見当もつかなかったのだ。


 重い沈黙の後、神様は噛んで含めるようにこう答えた。


「死を持って彼らを断罪しなさい」


「死とは何ですか?」


 初めて聞く言葉だった。 

それゆえ、私は神様に問い重ねずにはいられなかった。


「死は生命の終焉、精神の崩壊、肉体の消滅を意味します。そしてこの世界で生きるすべての生物は、老化の呪いによって必ず死に至ります。あなたたちも、日が昇り、日が沈むのを繰り返すうちに肉体が劣化していくのを感じていることでしょう。そしてその身体はやがて動かなくなる」


 私は小首を傾げ、夢の中で仲間と顔を見合わせた。


「ですが、神様。私たちは肉体が滅びても、また気づくとこの世界にいて、新しい肉体で新しい生活を始めています」


「それはあなたたち人間の記憶を私たち神が新しい器に移し替えているからですよ。肉体は言うなれば記憶装置のようなもの。その証拠にあなたたちは過去の記憶を引き継いで何度でも生まれ変わる。とはいえ、それは自ら思考しない、あなたたちだけに与えられた特権。個々の意思で考え、行動する猿人類の場合は、そうもいきません」


「なぜですか?」


「記憶は、ただのデータです。それゆえ移し替えるのは容易ですが、それを用いて思考する人格はオリジナリティーを備えた固有のプログラムのようなもの。その容量は極めて膨大であり、思考パターンは脳や肉体の構造に大きく依存しています。その為、容易に移し替えることは出来ないのです」


「……申し訳ございません。神様のお考えになることは、私たち人間には少し難しすぎるようです」


「そうですか。要は、自分という存在を定義する上で、同じ記憶データを有していれば、例え違う肉体デバイス、違う人格プログラムであっても同じ人間といえるのかどうかということなのですが……。まぁ、結論だけを言えば、自ら思考する彼ら猿人類は生まれ変わることは出来ないということですね。死んだら、それですべておしまい」


「おしまい? それは私という存在がこの世界から消えて無くなるということですか?」


「あなたが神への信仰を捨て、自ら思考するというのならば、そうなりますね」


「自分という存在がこの世界から完全に消えて無くなる。それは一体、どういうことでしょう。……わかりません。わかりませんが、想像すると何だかとても気持ちが落ち着かなくなります」


「それを私たち神は恐怖と呼んでいます」


「恐怖?」


「そう、恐怖です。自分が消えて無くなることを想像すると気持ちが落ち着かなる。それはあなたが死を恐れているからです。その感覚をよ-く覚えておきなさい。そしてその感覚を仲間たちと共有し、世界の共通認識とするのです。さすればそれはアカシックレコードい記録されて、この世界の真理となるでしょう。その為にもこれからあなたたちは繁殖し、個体数を増やすのです。猿人類を遥かに凌ぐ多くの仲間を――」


「そんなことで本当に罰になるのですか?」


「ええ。生まれ変わることができない猿人類にとって、死の恐怖は何よりもの罰となることでしょう。そして他ならぬあなたたちが神の代行者として彼らに死の罰を与えるのです」


「……我々が?」


「はい。これはその為の神託です」


「……お言葉ですが、神様。非力な我々に彼らを裁くことなど出来るのでしょうか? 知性を有し、文明を築き、日々進化する彼らの力は強大です。いくら数を増やしたところで、とても我々が太刀打ちできるとは思えないのですが……」


「安心なさい。言ったでしょう。信じる者は救われると。事実、あなたたちは私たちの奇跡で何度だって生まれ変わることができます。死に怯える心配はないのです。だって、妄信的な……もとい敬虔なあなたたちは、繁殖によって産み落とされた新しい肉体に記憶をコピペするだけで、何度だって複製が可能なんですもの」


「すみません。やはり難しくて私には理解できません」


「ふふふ、理解する必要なんてありませんよ。これまで通り、信じるだけでいいのです。あなたたちにはこの世界を創造した全知全能の神がついています。背信者などに負けるはずがありません。そして神を信じる者は、死後天国に召されて生まれ変わることができるのです」


「では、神を信じない者たちは……?」


「決まっているでしょう。地獄に落ちて死よりも恐ろしい苦痛を味わうことになります。生まれ変わることなく、永遠に――」

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