3-1:ミッシングリンク
神を盲信する為だけに作られた新人類は、純朴で、従順で、ひどく臆病な生き物だった。
それだけに扱いやすく、彼らには都合の良い家畜だったと言えよう。
なぜならアカシックレコードに、こうひと言記録すればいいだけだったのだから――。
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、新たな共通認識が記録されました。
アカシックレコード:共通認識の更新に伴い、神に代わって人間に啓示します。
アカシックレコード:――信じる者は救われる。
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「今日も世界は平和じゃのう。殊更、新しい人間は人畜無害でいい。進化しなければ生存競争に巻き込まれることもない。知性を持たなければ無駄に悩むこともない。ただ、我々を信じていれさえすれば、死んでもすぐに生まれ変わって次の生を謳歌することができるのだからのう」
「そうか? みんな同じ顔、同じ格好で、毎日毎日同じことの繰り返し。俺だったら退屈で死んだほうがマシだね」
「うーん。気持ちはわからなくもないけど、でもそのおかげであたしたちはこうして存在していられるんだから、この子たちには感謝しなくちゃ」
「まぁな。それにしてもアダムの野郎、厄介な共通認識を記録してくれたもんだよな。神は人間の信仰心によって存在するなんてよ」
「まったくじゃ。おかげで儂らにとって人間は切っても切れん存在になってしもうた」
「いいじゃない。仲良くやって行けばいいだけなんだから」
「婦人はアダムたちとのことを知らないから、そんなことが言えんだよ。マジでクソみてぇな野郎だったんだからな」
「ホント、大変だったんだから」
「ごめんなさい。いろいろと立て込んでいたものでね。でも一段落したから、これから私も創作活動に参加させて貰うわ」
「それはいいんだけど……。創作活動と言っても、これといって作りたいものがあるわけでもないし、当面は成り行きを見守るだけだけどね」
「そうなの? 残念だわ。折角に万能の力を手に入れたんだから、私も何か新しい生き物を創造して神様気分を味わいたかったのに……」
「ま、何か面白いことを思いついたら、その時は婦人にも協力して貰うってことでいいだろ。ところで、前回いなかったもう一人はどうしたんだ? 今回も不参加か?」
「もう一人?」
「辛気臭ぇ、根暗のことだよ。あの野郎、滅多に顔を見せねぇし、たまに現れてもだんまりで何もしゃべらねぇから、ログだけ見てたら、ホントいるんだかいねぇんだかわかりゃしねぇ」
「あんたって、ホント、口が悪いわね。あの子が根暗だったら、あんたは突っ込むしか能がない脳筋イノシシじゃない」
「うるせぇよ。年中オツムがお花畑のメルヘン女には言われたくねぇつーの」
「こらこら、仲良くせんかい。まったく、最近の若いのは血気盛んでいかん。誰にだって向き不向きがあるもんじゃろうて。それに彼なら時々、夜中の誰もいない頃合を見計らって顔は出してるみたいじゃぞ」
「だから根暗って言ってるんだろ。ゴキブリじゃあるまいし、夜中に一人でコソコソと何をやってるんだか」
「まぁまぁ、みんなそれぞれ事情があるってことよ」
「まぁ、何にしても新しいことを始めたいのは確かよね。新人類も順調に増えてきたことだし、ここらで何か発展があってもいいと思うの」
「おまえ、そんなこと言ってまた余計なものを作るんじゃないだろうな。知恵の実の時みたいに」
「うるさいわね。終わったことを、いつまでもネチネチと。あんたのほうがよっぽど根暗で陰険じゃない」
「ほら、二人とも喧嘩しないの。話が進まないでしょ」
「だって、こいつが……」
「はいはい。それで何かいいアイデアはあるのかしら?」
「明確にこれと言った者はないんだけど……。でも、何か考えたほうがいいのは思うのよね。新人類は知性もなければ進化もしないわけじゃない。このままだと他の生き物に餌にされるだけだもん」
「それもそうだね。最近は危険な生き物も増えてきたみたいだし……」
「なんせ空を飛ぶ生き物も現れたぐらいじゃからのう。人間も自分の身は自分で守れるようになっておいたほうがいいかもしれんのう」
「確かに……。個の力が弱い分、何かに集団で外敵に対抗できる力を身につけさせるべきかもしれないね。ああ、だったら次に集まる時にそれぞれアイデアを持ち寄るってのはどうかな?」
「いいわね! 動き出さない何も始まらないものね」
「そうね、私も何か考えておくわ。……ところで、あっちの島の、あの巨大な塔は、何なのかしら? 私がいない間にみんなで作ったの?」
「えっ!?」
「塔? 塔って何だよ。俺は何も聞いてないぞ」
「ちょっと! 何でこっち見るのよ。あたしだって何も知らないわよ」
「儂も知らんのう。どれどれ……」
「うわっ! 何だよ、これ?」
「こんな巨大な建造物、一体誰が作ったんだ??」
「誰が作ったも何も……、人間たちがみんなで一生懸命に建設してるみたいだけど、あなたたちが指示して作らせたんじゃないの?」
「まさか……。大体、こんなもの作らせてどうするんだよ」
「わかんないわよ。そんなの、作らせた奴に聞いてくれる」
「でも、誰も身に覚えがないんでしょ?」
「ってことは、何? 人間が自分たちで塔の建設を始めたってこと?」
「いやいや、さすがにそれはないんじゃないかな。知性がない以上、自分たちの意思で新しいことを始めるとは思えない。それに彼らにこれほど巨大な塔を作るだけの建築技術はないはずだもの」
「じゃ、どうして……」
「ってか、ちょっと待てよ。こいつらなんか変じゃないか」
「変って、何が?」
「顔よ、顔。丸かったり、四角かったり、面長だったり、しゃくれていたり……」
「それだけじゃないわ! 背格好も個体によって差があるし、何より道具を使ってる」
「確かにおかしい。僕たちが作った新人類に個体差なんて存在しない。みんな同じ顔、同じ体格のはずなのに、どうして……」
「何かの別の生き物が進化したってこと、なのか……?」
「可能性がないとは言えないけど、それにしても知恵の実を食べたわけでもないのに人間が道具を使うなんて……」
「そもそも何の生物が進化したら、こんなのが生まれてくるんじゃ?」
「猿…。いや、チンパンジーか?」
「似てるけど、それにしたってあんなのが数百万年そこらでこんな風なるとはとても思えないぞ。見てみろよ。奴ら、集団で協力して建材の石を運んでいやがるんだぜ」
「それって、つまり……仲間同士で意思疎通が可能ってことよね?」
「……共通の言語を使うのか」
「もしこれが独自に身に付けた知性によるものだとしたら、末恐ろしい進化だね。僅か数百万年でここまで脳を発達させるなんて……」
「つまるところ、こいつらは儂らが作った新人類とは別物ということでいいじゃな」
「それは間違いないと思う」
「で、結局こいつらは何を作っているんだ?」
「みんなが同じ目的で塔を建設しているんだとしたら、アカシックレコードに記録されてるんじゃないかな?」
「そうだ! 検索してみよう」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、サヘラントロプスはアウストラロピテクスに進化しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、猿人類は脳の肥大化に伴って二足歩行を習得しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、アウストラロピテクスはホモ・ハビリスに進化しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、猿人類は脳の肥大化に伴って道具の使用を習得しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、ホモ・ハビリスはホモ・エレクトスに進化しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、猿人類は脳の肥大化に伴って火の使用を習得しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、ホモ・エレクトスはホモ・サピエンスに進化しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、猿人類は脳の肥大化に伴って言語を習得しました。
アカシックレコード:言語の習得により、猿人類のコミュニティにおいて社会性が形成されます。
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「凄い! ログを見ただけでも、こいつらが物凄いスピードで進化しているのがわかる」
「ああ、だが、何が進化したらこんなに高い知性を持った生物が出来上がるんだよ」
「わからないわ」
「そんなことより、重要なのは、こやつらの目的じゃ? 一体、何の為にこんな塔を建設しておる?」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、猿人類は神の存在を認識しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、神の存在は猿人類の共通認識として記録されました。
アカシックレコード:猿人類は自らを霊長類と名乗り、動物の進化の最終形態であると主張しています。
アカシックレコード:……読み込み中、読み込み中。
アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、主張は却下されました。
アカシックレコード:猿人類は、完全である神に対し、不完全である自らは可能性の点において神を超える存在であると主張しています。
アカシックレコード:……読み込み中、読み込み中。
アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、主張は却下されました。
アカシックレコード:猿人類は、神の所在について協議しました。
アカシックレコード:協議の結果、猿人類は神の所在を天上と定義しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、神は天上に存在するものとして共通認識が更新されました。
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「おいおい、どうしてこいつらの認識がアカシックレコードに反映されているんだ?」
「知性を得たことで、こやつら猿人類も観測者として認定されたんじゃ」
「嘘でしょ。この人数が観測者としてカウントされたら、あたしたちの意見なんて通らないわよ。多数決じゃ、到底勝ち目なんてない」
「それも問題だけど、今はそれよりも……」
「俺たちの居場所が特定された……。いや、奴らの共通認識によって確定させられたと言ったほうが正しいか」
「……神は天上に存在する」
「ちょっと待ってよ。だとしたら、奴らが塔を建設してる目的って……」




