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アカシックレコード  作者: 八代 秀一
神々の御飯事編

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16/19

2-9:パンドラの箱

***************

アカシックレコード:人間より時間の撤廃が要求されました。

アカシックレコード:……読み込み中、読み込み中。

アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、要求は却下されました。

***************



「リリスが半狂乱で暴れてるぜ」


「川面に映った自分の顔でも見て、異変に気づいたんだろうね。とはいえ、もう何をしても手遅れだけど」


「……あのさ。あたし、ちょっと不思議なんだけど、どうして人間の要求が却下されるの? あの子たちが全員賛成したら過半数を超えるわけだし、本当なら時間の認識だって書き換えられはずでしょ。それなのにどうして……」


「多分、それはアカシックレコードが単に賛成した人数で認識を記録するのではなく、その認識を真実として信じている観測はの人数で可否判定しているからだと思うよ。と言っても、僕も今回のことで初めてそれに気づいたんだけどね」


「なるほどな! それでさっきから人間どもの要求が突っぱねられてるってわけか」


「うん。彼らが上っ面でどれだけ否定しようとも、本心では時間の概念を受け入れてしまっているのは確実だからね。一度失った信用を取り戻すのが難しいように、一度信じたものを疑うのもまた難しいことさ」


「じゃ、生物はこの先ずっと老化からは逃れられないってこと?」


「どうだろうね。もちろん、この先、何かのきっかけで共通認識が書き換えられる可能性がないとは言えないけど、ちょっとやそっとのことでは時間の概念は覆らないんじゃないかな。現に僕たちはもう、事象の変化を時間と結び付けて考えてしまっているだろ。それに今後この世界で暮らす生き物はすべて、時間経過ともに老化する姿を相対的に観察しながら生活していくことになるわけだからね。仮に自分だけは老化しないと思い込んだとしても、他の観察者たちが自分を老化すると認識していたら、アカシックレコードの多数決によって強制的に老化は執行されることになると思う」


「そっか……。で、どうして老化すると生き物は死んじゃうの?」


「生物にとって老化とは細胞劣化による機能不全、平たく言えば壊れていくってことだからね。手足が壊れれば動けなくなるし、臓器が壊れれば食べたものを消化してエネルギーに変換することが出来なくなる。となれば、必然的に生命活動を維持することは難しく、いずれば息絶えるってわけさ」


「真綿で首を絞めるようで気が引けるが、こうなってしまった以上、仕方なかろうのう。じゃが、人間が死滅すると儂らも困るんじゃないのか。人間の信仰心によって、神――もとい儂らは存在するとアカシックレコードに記録されてしもうたんじゃろ」


「そうだね。だから人類を全滅させるわけにはいかない。とはいえ、それがアダムたちである必要はないからね。また作って増やせばいいだけの話さ。何たって、僕たちはこの世界の創造主なんだから」


「それもそうじゃのう」



***************

アカシックレコード:人間より不老不死への進化が要求されました。

アカシックレコード:……読み込み中、読み込み中。

アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、要求は却下されました。

***************



「無駄な足掻きだね。要求するだけではアカシックレコードに記録されない。繰り返すようだけど、重要なのはそれを真実として信じて疑わない心だからね」


「人間とはつくづく愚かな生き物じゃのう。我々に歯向かったりしなければ、時間なんて制約を科されることなく、永遠の時を生きることができたじゃろうに」


「とはいえ、仮に死んだとしても無に返るわけじゃないんだけどね。彼らを構成していた分子や原子はこの世界のどこかには存在しているわけだし、状態としての変化はあっても質量としての変化はない。それに本人が望む望まないにかかわらず、いずれは別のものに生まれ変わるし、運が良ければ巡り巡ってまた人間に生まれ変わることだってあるかもしれない。そういう意味では不老ではなくても、不死とは言えるのかもしれないよね」


「いやいや、個体として全くの別物になっちまったら、それはもう生物としては死んだも同然だろ」


「そういうものかなぁ……。単に分子配列やそれを構成する分子量が多少異なるだけで、同じ生物であることには変わりないと思うんだけど……」


「何にしてもあれだけ慌てておるんじゃ。奴らにとっては一大事ということなんじゃろう」


「まぁ、何にしても自業自得だろ。そんなことより俺たちもさっさとやることをやっちまおうぜ。新しく人間を作るにしても、育つにはそれなりに時間が掛かるんだ」


「そうね。今度はあたしたちに歯向かわない従順で素直な人間を作りましょ。余計な知恵は与えず、神を盲信するだけの可愛い子供たちを……。って、あれ!? この期に及んでまだアダムたちが悪足掻きしてるみたいよ。ほら、見て!」



***************

アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、粘土と山砂を用いた土器の生成技術が発明されました。

アカシックレコード:これにより人類は、粘土製の容器の生成が可能になりました。

***************



「……容器の生成?」


「土をこねて何か作ってるみたいだね。ピトス(甕)? …いや、箱かな?」


「いやいや、箱にしてはでかすぎるだろ。人間が優に十人は入れそうな大きさだぞ」


「棺、というわけでもなさそうだし……」


「何かは知らんが、少なくとも儂には簡易的なシェルターに見えるのう」


「あっ! みんな箱の中に入っていくわよ。七人全員が箱に逃げ込んで蓋しちゃった」


「これじゃ、中の様子がわからんではないか。奴らは一体、何を考えておるんじゃ?」


「おい、見ろ! またアカシックレコードに人間の要求が……」



***************

アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、閉鎖された箱の中に限り、時間の撤廃が要求されました。

アカシックレコード:……読み込み中、読み込み中。

アカシックレコード:……対象が観測できません。

アカシックレコード:……通信が切断されました。

***************



「通信が切断されたじゃと!? 一体、どういうことじゃ??」


「そうか! そういうことか。外界から遮断された箱の中は、観測が不可能。つまるところ、この世界に在りながら箱の中はこことは別空間ということになる」


「えっ!? じゃ、箱の中はアカシックレコードの対象外ってこと?」


「わからない。けど、僕たちとは異なる認識によって形成された別世界である可能性が高いと思う。現にアカシックレコードのアクセスは切断されたわけだしね」


「じゃ、何か。俺たちはもう人間には手を出せないってことか」


「あの箱の蓋を開ければ、またこの世界のアカシックレコードが適用されると思うよ。仮に彼らが箱の中で独自の共通認識を作り上げていたとしても、それはあくまで箱の中に限定された一部の観測者によるものだからね。僕たちが観測した時点でそれらは妄想や幻想、もしくは夢として処理されるはずさ。けれど、あの中にいるうちは……」


「俺たちには手が出せない。……クソ、箱の中では奴らはやり放題ってわけかよ」


「まさに箱庭の楽園ね」


「しかも光を遮断して暗闇となれば、中にいる人間同士、お互いの姿を視覚的に確認することはできない。相対的に老いを感じることがないから、時間の概念から解放されるという要求も、箱の中だけなら可決されてもおかしくない」


「日の出、日没もないからのう。下手をすれば、あの中で永遠に生き続けるぞ」


「そうだね。そして何より恐ろしいのは、あの中には今、僕たちが知り得ない様々な可能性が詰まっているってことだよ。彼らが年を取っているのか、はたまた若いままなのか……いや、それどころか生きているか死んでいるかもわからない。だって今、あの中は僕たちがこの世界を創造した時と同じ、何もない一色の視界に意識だけがぽつんと存在しているのと同じ状態なんだから。その気になれば、あの箱の中にここと同じ世界をもう一つ作ることだってできるかもしれない。ただひとつ違いがあるとすれば、僕たちの視界は白一色の平面な世界だったのに対して、彼らの視界は真っ黒だってことだけ……」


「えっと……。ここに存在しながら、こことはまったくの別世界ってこと?」


「平たく言えば。そういうことになるかな」


「まさにブラックボックスだな。まぁ、何にしてもああなっちまった以上、俺たちに出来ることは何もないわけだし、せいぜい新しく作る人間どもには、あの箱は決して開けるなって言い含めるぐらいだろうよ」


「そうね。開けて良いこともないだろうし……」



 こうしてこの世界には神を盲信する為だけに作られた新人類と、禁忌を犯して知恵の実を食し、神に反逆した旧人類の二種類が生まれたのである。


 そして後にアダムを筆頭とする旧人類たちは、その名を抹消され、神を盲信する者たちに『悪魔』と呼ばれることになるのだった。

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