2-8:七つの大罪
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アカシックレコード:大洪水で聖地を洗い流して、人類を滅ぼしますか?
アカシックレコード:……読み込み中、読み込み中。
アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、要求は却下されました。
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「!?」
「却下されたじゃと……」
「賛成が俺たち四人で、反対はアベルがいなくなったから、アダム、カイン、セトの三人だろ。イブ、ルルワ、アクレミアの女三人は白票で多数決には不参加だから、四対三で俺たちの要求は可決されるはずだろ。それなのにどうして……?」
「やっぱり観測者の総数に対して過半数が必要ってことなのかな?」
「いやいや、これまでだってその場に居合わせながら婦人や無口が多数決に参加しないことはあったはずだ。それでも共通認識として可決されてきただろう。多数決において白票が無効であることは間違いない」
「だったら、なんで却下されちゃったのよ」
「まさか、儂らの中に裏切り者が……?」
「多分、それはないと思う。ただ、今回の多数決においてだけは、無効票は存在しなかったんだよ」
「どういうことよ?」
「例えアダムに賛同していなかったとしても、自分たちに危険が及ぶとなれば話は別ってことさ」
「それはつまり……今回に限ってはイブたちが多数決に参加したってことかよ」
「おそらくね。だから、僕たちの要求は却下された」
「事を急いて寝た子を起こしたということか……。こいつはマズいことになったのう」
「えっ、ウソ! このままだと私たち負けちゃうってこと!? 私たちが創造した人間に?? そんなの嫌よ」
「嫌も何も、お前が撒いた種だろ」
「だって、こんなことになるなんて思わなかったんだもん。みんな、最初は素直で可愛かったし。それにまさか私たちを模して作った子供たちが、親である私たちに歯向かうなんて誰も思わないじゃない」
「だが、結果として奴らは俺たちに牙を剥いた。見ろよ、あの人間どもの醜い姿を。感情剥き出しで怒り狂ったイブ、嫉妬で弟を殺害したカイン、その死体さえも喰い荒らすアクレミア、混乱に乗じてアベルの羊を盗もうとするセト、周りに流されて何ひとつ自分では決められないルルワ、性欲のままに雄をまぐわうリリス、そしてあろうことか、創造主たる俺たちに取って代わろうと目論むアダム」
「生物が知性を身につけた結果が、これとはのう……」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、神の存在は否定されませんでいた。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、神が人類に危害を加えることは禁止されました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、以降、神の存在は人類の信仰によって成立するものとします
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「人間の奴ら、数の優位に気づいて畳みかけてきやがったぞ」
「ヤバいって! どんどん新しい認識が記録されてる。あたしたちの作った世界が書き換えられちゃう」
「クソ! 猿の分際で好き勝手しやがって」
「言ってる場合か。早く何とかせんと本当に乗っ取られるぞ。奴ら、想像以上に頭が切れよる」
「そうだね。彼らは目に見えない神の存在に気づいて、僕たちの行動を……、いや、存在そのものに制限をかけてきたんだ。このままだと僕たちのほうが人間の想像力に取り込まれることになる」
「想像に取り込まれる!? 一体、どういうこと?? あたしにもわかるように説明して」
「ああー、もう、面倒臭せぇな。奴らが俺たちを神と認識していることはわかるよな。で、たった今、その神ってのは人間の信仰心によってのみ成立するとアカシックレコードに記録されちまったんだよ。つまりは人間が信仰心を失った時点で俺たちの存在は消えちまうってことだ」
「嘘でしょ。どうしてこんなことになっちゃったのよ」
「おまえが知恵の実なんて作ったからだろ。で、どう責任取るつもりだよ、この状況?」
「知らないわよ、あたし悪くないもん」
「とにかく、僕たちもアカシックレコードに認識を上書きするんだ」
「だから、その方法は? どうやってアカシックレコードに記録するっていうんだ? 数ではこちらが圧倒的に不利なんだぞ」
「だから言っただろ。アベルの時と一緒さ。信じる、信じないの選択肢を与えない要求で共通認識を書き換えるんだ。外堀を埋めることで否応なく要求を可決させて、奴らを自滅に追い込んでやる」
「……そんなことできるのかよ」
「やるしかないだろ」
「して、アカシックレコードには何と記録するつもりじゃ?」
「いいかい、みんな。一度しか言わないから、よく聞いて。これから僕の言うことを頭の中で復唱するんだ」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、日の出、日没のサイクルを一日とする時間の概念が形成されました。
アカシックレコード:これにより、この世界で発生する事象のすべてが時間と連動しましまた。
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「時間の概念? 何じゃ、そりゃ」
「出来事や変化を認識するため定義さ。世界は過去から未来へと不可逆的に連続して進行している。まぁ、簡単に言えば、場面場面に番号を付けて数えるみたいなものかな」
「ゴメン、全然わかんないんだけど」
「そうだなぁ、試しに一から十まで数えてみてよ。今まで一つしか存在しなかった世界が、君が一を数えた時の世界、二を数えた時の世界ってな具合に場面と番号で認識できるようになっただろ。そして一から二、二から三へと数字が進むにつれて世界は変化している。それこそ今、君が時間の概念を理解したようにね。そして時間は未来に進むことはあっても、決して過去に戻ることはない。君が時間の概念を知らなかった頃に戻ることができないのと同じようにね」
「ほう。して、それがこの状況でどう役に立つというんじゃ?」
「まぁ、見てなよ」
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アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、金属の腐食が時間と連動しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、物質の腐敗が時間と連動しました。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、生物の成長が時間と連動しました。
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「ほら、時間が共通認識となったことで、人間が無意識のうちに自覚していた事象が共通認識としてアカシックレコードに記録してされていく」
「ちょっと待てよ。記録されるのはいいんだが、どうして俺たちにリプライ要求が来ないんだ。俺はまだ何ひとつ賛同なんてしていないぜ。それなのに……」
「君も無意識のうちに理解しているからさ、時間と消費の関係をね」
「時間と消費……?」
「なるほど、考えおったな。金属は大気中の酸素によって腐食する。食品は微生物の増殖によって腐敗する。そして生物は細胞を活性化……いや、細胞が酸化や糖化することによって老いていく」
「御名答! ほら、その証拠に人間たちが肉体の変化に慌てふためいているよ。時間経過に伴って家畜が老衰していくのを目の当たりにしたら、否が応でも認識せざるを得ないだろうからね。自分たちも、いずれはああして衰えていくんだと。そして老化の行き着く先は生命活動の停止、つまりは死だ」




