2-7:神への反逆
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アカシックレコード:アカシックレコードのアドミン権限を人類に付与しますか?
アカシックレコード:……読み込み中。
アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、要求は却下されました。
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アカシックレコード:人類を除く知的生命体のアカシックレコードへのアクセス権を削除しますか?
アカシックレコード:……読み込み中。
アカシックレコード:認識が過半数を超えない為、要求は却下されました。
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「クソが! 俺たちに作られた存在のくせに調子に乗りやがって。アカシックレコードを独占するつもりだろうが、そうはさせるかってんだ」
「アダムの奴、儂らの存在に気づきおったのか?」
「いや、それはないと思うよ。単にリリスの一件でアカシックレコードが使えなくなったんで危機感を覚えただけじゃないかな。多数決が意思決定の条件ならば、参加人数が多ければ多いほど自分の意見は通り難くなるものだからね。それで早々にアカシックレコードを独占しておこうと手を打ってきたんだと思う」
「じゃ、どうしてさっきから彼らの要求は却下されてるの? 向こうのほうが人数が多いはずのに……」
「多分、人間全員がアダムの考えに賛同しているわけじゃないんだよ」
「リリスを筆頭にな」
「そうだね。リリスはこの場にいないから観測者としてはカウントされていないはずだけど、仮にいたとしてもアダムの味方になることはないと思う。それにほかの女の子たちだって、アダムに良い印象は持っていないはずだからね。知恵の実を食べたことで、妊娠、出産の重責を押し付けられたことに気づいたはずだし」
「となると、目下の敵は雄(♂)の四人ということになるのう」
「そうだな」
「イブ、ルルワ、アクレミアの女の子三人が未回答なら、お互いに四対四の同数だものね。アダム、カイン、アベル、セトの四人がいくら結託したところで、過半数に満たない以上、共通認識として認められることはない」
「とはいえ、雌(♀)の三人も元を正せば人間じゃ。いつ手のひらを返しても不思議はないからのう。用心するに越したことはないじゃろうな」
「チッ、こんな時に婦人と無口はどこで油を売ってんだよ」
「イライラしないでよ。仕方ないでしょ。あの二人は元々頻繁に顔出すほうじゃないんだから」
「そうじゃのう。ない袖は振れぬよ。儂らにできることで何か打開策を考えるしかなかろう」
「考えてどうにかなる問題か? 直接やり合うことができない以上、アカシックレコードを使って黙らせる以外に手はないだろ。にもかかわらず、肝心の頭数が足りないときてやがる」
「いや、それならどうにかなるんじゃないかな。もちろん、うまくいけばの話だけど……」
「……どういうことだ?」
「思い出してごらんよ。彼らの中に、架空の神の存在を崇め、供物を捧げていた者たちがいただろう。その信仰心を利用してやるのさ」
「カインとアベルのことか。確かにあやつらの信仰心は本物じゃ。毎日欠かさず神に祈り、自作の祭壇に肉や野菜を供えておったからのう。じゃが、一体どうやって揺さぶりを掛けようというんじゃ?」
「簡単さ。神の啓示として僕たちの要求をアカシックレコードに記録するんだよ。例えば『神は人間がアカシックレコードに記録することをお許しにならない』みたいな感じでね。そうすれば、さっきみたいにアカシックレコードのリプライ要求が直接彼らの意識に語り掛けるはずさ。さも天の声であるかのようにね」
「いやいや、さすがにそれは見込みが甘すぎるだろ。仮に上手くいったとしても、要求が可決されるとは到底思えないんだが……」
「もちろんさ。でも、それでいいんだ。今回の作戦で一番重要なのは要求が可決されることではなく、この世界を創造した絶対的な神の存在を信じ込ませることなんだから。まぁ、何にしても一回やってみようよ。話はそれからだ」
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アカシックレコード:あなたは神を信じますか?
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、この世界に神の存在が確立されました。
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「おっ! うまくいったみたいだぞ」
「自ら進んで神に供物を捧げていたんだ。カインとアベルは神の存在を否定するはずがないからね」
「なるほどな。で、次はどうするんだ?」
「さっきも言ったように、僕たちがこの世界を創造した神として人間に揺さぶりを掛けてやるのさ。こんな風にね」
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アカシックレコード:アベルよ、貴方が供物を捧げるならば、神もまた貴方に加護を与えましょう。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、事象は共通認識としてアカシックレコードに記録されました。
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アカシックレコード:アベルよ、貴方が神を愛するならば、神もまた貴方を誰よりも愛しましょう。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、事象は共通認識としてアカシックレコードに記録されました。
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「神の啓示だか何だか知らないけど、こんな当たり障りのないやり取りで本当に人間をやり込めることができるのかよ。それに供物を捧げていたのはアベルだけじゃないだろ。カインだって……」
「当たり障りのない要求だから、何の警戒もなく可決されるのさ。まぁ、見てなって!」
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アカシックレコード:アベルよ、貴方が罪を許すならば、神もまた貴方を許して天に召されることでしょう。
アカシックレコード:認識が過半数を超えた為、事象は共通認識としてアカシックレコードに記録されました。
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「ねぇ、さっきからどうしてアベルばっかなの?」
「さすがにカインが可哀想になってきたのう」
「いいんだよ、これで」
「いや、マズいだろ。いくらなんでもアベルばかり贔屓しすぎだ。カインが逆上してアベルに襲い掛かったぞ。早く止めないと、このままじゃ……」
「はっ!? なるほど、そういうことか」
「何、一人で納得してんのよ。このままだとアベルが殺されちゃうわよ。早く止めないと!」
「それが狙いなんじゃよ。アベルはいつも神への供物として子牛を捧げておった。じゃが、儂は殺された子牛が憐れでならんでのう。そのたびにアカシックレコードを使って処分しておったんじゃよ。それをカインは勘違いしたんじゃろうな。数日のうちに弟の供物は無くなるが、自分の供物は手つかずのまま。神は弟の供物だけ受け取って、自分の供物には見向きもしないと。そうして嫉妬心は日に日に膨らみ、ついには我慢の限界を超えて爆発したんじゃろうて」
「……人間ってのは恐ろしい生き物だねぇ。妬み嫉みで、こんなになっちまうんだから。ほら、見てみろよ。アベルの奴、殴られ過ぎて動かなくなっちまったぞ」
「まぁ、ある意味では自業自得かもしれんがのう。神への供物とはいえ、これまで散々子牛の命を奪ってきたんじゃ。自分が殺される側になったとて文句は言えまい。人も牛も命の重さに違いはないからのう」
「何にしても、今がチャンスなのは確かだわ。向こうは一人減って三人、あたしたちは四人。今のうちにアカシックレコードを使って、ちゃちゃっとケリを付けちゃいましょう」
「だな。創造主である俺たち神に歯向かったんだ。二度とそんな気を起こさないように、きっちりと躾てやらないとな」
「何をするつもり?」
「そうだな。前回は噴火だったから、今回は洪水で綺麗さっぱり洗い流してやるってのはどうだ?」
「他の生き物を巻き込むのは、気が引けるけど……」
「また作ればいいじゃない。アカシックレコードがあれば、何度だってやり直せるんだから」
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アカシックレコード:神は傲慢な人類に裁きを下すことを決意しました。
アカシックレコード:大洪水で聖地を洗い流して、人類を滅ぼしますか?
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