2-4:女蛇の姦計
「おや!? こりゃまた、珍しい先客がおるのう。おぬしがここに顔を出すとは珍奇なこともあったもんじゃのう」
「……夜、人、無い。静か、好き……」
「おお、これはこれは! 無口なおぬしが顔を出すばかりか言葉まで発するとは、ほんに珍しい。天地がひっくり返るかと思ったぞい。して、ここへは何用で?」
「様子、見る」
「人間のかのう?」
「……」
「反応がない……ということはハズレか。まぁ、皆まで語らずとも良い。おぬしにはおぬしの考えがあるんじゃろう。また何か手伝うことがあったら、その時は声を掛けておくれ。ほれ、あの時みたいにのう」
「……諾」
「して、人間の様子はどうなったかのう。日中、ひどく揉めとったようじゃが……」
「……全員、就寝」
「まぁ、日も落ちて随分経つしのう。どれどれ? おお、ぐっすり眠っておる。みんな可愛い寝顔じゃのう。……うん!? ちょっと待て。一人足りんぞ。リリスの姿がどこにも見当たらんではないか?」
「……リリス、不眠、深夜徘徊」
「なんじゃと! あの性悪娘、夜闇に紛れて抜け出しおったか? まったく、次から次へと問題ばかり起こしよって」
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アカシックレコード:リリスの位置情報を検索しました。
アカシックレコード:エデン内部に移動中の生体情報を検知しました。
アカシックレコード:データベースより生体情報を照合します。
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「……リリス、発見、行動、不審」
「この座標はアダムの子供たちが眠っておる横穴じゃが、はて? こんなところで、一体何をしようというじゃ?」
「……行動原理、不明。……予測不能」
「そうじゃのう。それにしても、ここは暗くてよく見えん。何か腕に抱えておるようじゃが、これは……」
「……袋」
「袋? おお、昼間に食糧庫から奪った革袋か。して、革袋で子供たちに何をしようというんじゃ。あの女は何を企んでおる」
「……」
「困ったのう。目的がわからん以上、このまま放っておくわけにもいくまい。殊更、あの女は何を仕出かすかわかったもんじゃないからのう。どうにかしてアダムたちに知らせてやりたいところじゃが……」
「……アカシックレコード」
「それができれば楽なんじゃが、おぬしと儂の二人だけではアカシックレコードに記録することは叶わんよ。何か別の方法を考えねば……」
「!?」
「何じゃ? どうかしたか??」
「……足音。……誰か、来た?」
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アカシックレコード:新たにエデン内部を移動中の生体情報を検知しました。
アカシックレコード:データベースより生体情報を照合します。
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「おお、イブじゃ。イブが物音に気づいて目を覚ましたんじゃ。子供たちの横穴に入っていくぞい」
「……」
「リリスも気配に気づいたようじゃのう。暗がりに目を凝らしてイブを警戒しておる。……にしても、険しい顔じゃのう。まるで獲物を狙う肉食獣のようではないか。道理でイブが怯えるわけじゃ」
「……小声、ひそひそ、会話」
「おお、何やら話し始めよったのう。子供たちについて何か言っておるようじゃが、いかんせんこやつらの言葉はさっぱりわからん。一体、何を話しておるんじゃ?」
「……リリス、袋、譲渡」
「どういうことじゃ? なぜ革袋をイブに渡す。いや、それよりもリリスは子供たちに何をしたというんじゃ? それもこんな夜更けに人目を忍んで……」
「……謎、解明、手がかり、革袋」
「わかっておる。わかっておるが、肝心の中身がわからんことには推理も出来ん。革袋を受け取ったイブの反応を見るに、それほど珍しいものが入っているわけではなさそうじゃが……」
「……終話。リリス、辞去」
「おっ! リリスの奴、去り際に何やらイブに耳打ちしよったぞ。別れの挨拶というより、何か秘密を打ち明けたといった雰囲気じゃが、一体何を吹き込みよったんじゃ。子供たちの寝所に忍び込んだことに何か関係があるのかのう。革袋の中身も気になるし、謎は深まる一方じゃ。つくづく人間は行動が読めなくて困る。一体、何を企んでおるというんじゃ。儂は人間が空恐ろしくなってきたぞい」
「……人間、我々、現身」
「それはあくまで姿形の話じゃろう。儂らの中にこんな奇怪な行動を取る者はおらんよ」
「……子供、無事?」
「今、イブが様子を伺っておる。反応からして十人とも無事のようじゃのう」
「……一件落着?」
「いや、事件は何も解決しておらんよ。結局、リリスが子供たちに何をしたのかはわからずじまいじゃ。まぁ、何にしてもこのままというわけにはいかんじゃろう。明日、みんなに相談してみるとするかのう。動機によっては、あの女を排除せねばならんかもしれんしのう」
「……排除?」
「恐竜の時と同じじゃ。この世界の脅威となる異物は、早めに排除しておいた方がよかろう。儂らの作った世界に、儂らの想像を超える存在などあってはならんからのう」




