表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は選ばれる存在ではない。 選ばれたことにされる存在である  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/51

8. 第一部の締め

勇者は、称号を得たまま何も成し遂げていなかった。


魔王を討っていない。

戦果を挙げてもいない。

民を救ったという逸話も、まだ存在しない。


それでも、世界は一つ先に進んだことになっている。


王国の記録には「勇者就任」「初任務完了」という項目が並び、進行状況は順調と判断される。街道は安全で、被害は出ていない。目的は達成された。達成されたはずだ、と。


教会では、祈りの文言が微妙に変わる。

「勇者が選ばれた」から「勇者が歩み始めた」へ。

行動の内容ではなく、時制だけが更新される。


人々もまた、それを疑わない。

勇者が旅立ち、任務を受け、戻ってきた。

それだけで十分だった。英雄譚は、いつもそうして始まるものだと、誰もが知っている。


だが、その始まりにしては、あまりに何も起きていない。


剣は抜かれず、魔法は使われず、勝利の歌も生まれない。

残ったのは、書面と報告と、整理された記録だけだった。


それでも「勇者は動いた」と扱われる。

動いたことにされる。

そう扱うことで、世界は安心する。


勇者本人は、それを否定しない。

肯定もしない。

ただ、そのまま受け取っている。


読者だけが気づいている。

この時点で動いているのは、人ではない。


動き出したのは、言葉だ。


「勇者」という語が、世界の中を先に進み、

期待を生み、解釈を固定し、

次に起こるべき出来事の輪郭を、静かに描き始めている。


行動は、まだ追いついていない。

だが定義は、すでに効力を持っている。



何も起きなかったという事実が、

何かが始まった証拠として、正式に受理されたところで。


そしてここから先、

勇者が何をするかではなく、

勇者という言葉が、何を許さなくなっていくかが、

物語を進めていくことになる。


世界はまだ平穏で、

魔王も健在で、

誰も敗北していない。


ただ一つだけ、

以前と同じではいられなくなったものがある。


それは、

言葉の使われ方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ