5. 初任務の通達
初任務の通達は、儀式の熱が冷めきらないうちに届いた。
祝宴の準備が進む廊下で、王国の役人が主人公を呼び止める。声は低く、事務的で、祝いの言葉は添えられない。通達は急ぐ必要があり、感情を挟む余地はないという調子だった。
渡されたのは、またしても書面である。
封は簡単で、破ることを前提とした扱いだった。紙質は先ほどの称号文書よりも薄く、保存されることより運ばれることを想定している。
内容は簡潔だった。
郊外の街道付近に魔物が出没している。
被害は軽微。負傷者なし。
周辺住民への注意喚起はすでに行われている。
討伐を命ずる、と書かれてはいる。
だが文面の多くは「状況確認」「適切な対応」「可能であれば排除」という、幅のある表現で占められていた。失敗を責める余地も、成功を強調する余地も、あらかじめ薄められている。
主人公は目を通し、紙を折る。
質問はしない。
役人は一瞬、何か付け加えるべきか迷う。
この任務が危険でないこと、前例として無難であること、何より「最初だから」という理由を説明することもできた。だが、それらは説明であって命令ではない。説明は不要だ、と役人自身が判断する。
この任務に、実利はほとんどない。
被害は出ておらず、放置しても大事にはならない類の案件だった。王国軍を動かすほどではなく、教会が介入する理由も弱い。
だが象徴性は十分だった。
勇者が任務を受け、現地に向かい、帰還する。それだけで、「勇者は動き始めた」という実績が生まれる。報告書に記す一行が、何より重要だった。
役人は内心で安堵する。
これなら問題は起きない。起きたとしても、小さい。物語の第一歩としては、これ以上ないほど安全だった。
主人公は通達を懐に収め、軽く一礼する。
意気込みも、不安も、口にはしない。
その様子を見て、役人は「理解している」と判断する。
勇者とは、多くを語らずとも役割を果たす存在なのだと、自分の中で納得する。
こうして、初任務は発行される。
それは戦いを求める命令ではなく、動いているように見せるための手続きだった。
誰もが、その任務が無事に終わると信じていた。
そしてその意味で、誰もが間違っていた。




