4.続く問い(答えを要求しない)
勇者は、畳みかけなかった。
沈黙を破ることが目的ではないかのように、
間を、そのまま間として残した。
玉座の間には、
先ほどと同じ静けさが戻る。
だが同じではない。
問いが置かれた後の沈黙は、
置かれる前とは質が違っていた。
やがて、勇者が再び口を開く。
「あなたが魔王であることで、
いま、何が起きていますか」
語調は変わらない。
促しも、圧も、期待もない。
答えを引き出す形ですらなかった。
魔王は、即座に理解する。
この問いには、
沈黙という選択肢が最初から含まれている。
そして――
答えが、見つからない。
玉座の間を見渡しても、
何かが変化した形跡はない。
警鐘は鳴っていない。
兵は集結していない。
壁に刻まれた過去の戦いの記録も、
ただ装飾として沈黙している。
世界は、安定している。
戦争は起きていない。
英雄譚も、生まれていない。
恐怖による結束も、
対抗による進行も、
自分を中心とした運動が、どこにも存在しない。
魔王は、ようやく気づく。
自分は、
「原因」として参照されていない。
誰かが何かを決めるとき、
誰かが動く理由を探すとき、
そこに自分の名は置かれていない。
否定されてはいない。
忘れ去られてもいない。
ただ、前提として呼び出されていない。
それは、敵である以前に、
物語の起点であることを
失った状態だった。
勇者は、
それ以上何も言わない。
問いは、
答えを要求しないまま、
玉座の間に留まり続ける。
魔王は沈黙する。
その沈黙の中で、
初めて理解し始めていた。
自分が魔王であることは、
もはや世界を動かす条件ではない。
ただ存在しているだけでは、
何も起きないのだと。
そしてこの理解は、
まだ言葉になっていなかった。




