5.記録される「継続」
会議は、終わった。
正確には、終了の手続きを踏んだ。
決裂は宣言されなかった。
誰一人として席を立たず、抗議も、拒否も行われなかった。
それゆえ、失敗という言葉は使われない。
合意も、形成されていない。
署名される文書はなく、調印のための机も用意されなかった。
だが、それもまた問題にはならなかった。
最終処理として、記録官が議事録をまとめる。
――本会議は、有意義な意見交換を行った。
――各勢力は相互理解を深めた。
――協議は今後も継続される。
どの文言も、事実ではある。
そして、どれも内容を持たない。
王国側は満足していた。
衝突を回避した。
戦争を「起こさなかった」ことは、統治上の成果である。
教会側も異議はない。
使命は否定されていない。
定義されていない以上、損なわれようがなかった。
魔王軍にとっても同様だった。
敵として否定されていない。
倒す対象としても、固定されていない。
勇者は最後まで発言しなかった。
記録にも、特記事項として名は残らない。
会議室を出るとき、
それぞれが「何も失っていない」ことを確認していた。
読者だけが知っている。
和平は、成立していない。
戦争も、成立していない。
だが、
「対話が続いている」という事実だけが、
公式記録として、世界に固定された。
それは前進ではない。
しかし、後退でもない。
世界は今日も平穏だった。
ただし、どこへ向かっているのかは、
誰にも分からなくなっていた。




