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勇者は選ばれる存在ではない。 選ばれたことにされる存在である  作者: 南蛇井


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第六部:三勢力の対話未遂 1.和平という名の招集

王国から発せられた文書は、丁寧に整えられていた。

余白は均等で、語調は穏やか、どこにも感情の跡はない。


題目には、ただ一行。


――「和平交渉の開始について」


それは宣言というより、事務連絡に近かった。

文書を受け取った者の多くは、まず「和平」という語に目を留め、次に首を傾げた。


戦争は、起きていない。

終結させるべき戦争状態が、そもそも存在しない。


王国側の意図は明確だった。

何かを終わらせるより、何も起きていない状態を固定する方が、はるかに安全である。

「和平」という語は、そのための枠組みだった。


文書の本文は、慎重に曖昧さを選び取っている。


敵の名は記されていない。

戦争状態の定義もない。

代わりに置かれているのは、「相互理解の確認」という抽象的な目的だけだった。


理解とは何か。

何を相互にするのか。

その説明は、どこにもない。


教会は文書を読み、静かに受理した。

拒否すべき理由が見当たらなかったからだ。

使命を否定されてもいなければ、教義に反してもいない。参加しない理由が存在しない。


魔王軍も同様だった。

敵対は否定されていない。

だが、肯定もされていない。

否定されていない以上、招集を拒む根拠はない。


勇者のもとにも、同じ文書が届いた。

称号の条項に従えば、彼はこの種の会合に同席する資格を持っている。

彼は文書を読み、何も書き加えず、参加の意思だけを返送した。


こうして、三勢力と一人の勇者が、同じ卓に集うことになった。


誰も反対していない。

だが、誰も期待していなかった。


この招集は、何かを決めるためではない。

決まっていない状態を、決まっていないまま保存するためのものだった。


和平という名の下で、

世界はまた一つ、動かない理由を整えたに過ぎなかった。

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