6.締め
魔王は、玉座を離れていた。
逃げたわけではない。敗れたのでもない。
城は健在で、軍も揃っている。
侵攻計画は最新の状態に保たれ、前線も崩れていない。
それでも、戦争は始まらなかった。
勇者は勝利していない。
剣を振るってもいなければ、魔王と対峙したことすらない。
魔王も敗北していない。
誰にも否定されず、排除もされず、名は記録に残り続けている。
だが――戦争だけが、成立しなくなった。
恐怖は想定されなければ発生しない。
対抗は定義されなければ組織されない。
英雄は、必要とされなければ誕生しない。
かつて、魔王とは世界の運動そのものだった。
存在するだけで、物語を前に進める装置だった。
しかし今、世界は動いていない。
否定も、肯定もせず、ただ前提を問い返している。
魔王は理解し始めていた。
自分が力を失ったのではない。
役割を失ったのでもない。
必要とされていないのだ。
魔王とは、
世界に必要とされることで、
初めて魔王であり得た存在だった。
そしてその必要は、
誰かが問うた一言によって、
静かに宙に浮かされたままになっている。




