表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は選ばれる存在ではない。 選ばれたことにされる存在である  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/51

5.止められない流行

再び、子どもたちの場である。

校庭、路地、寺子屋の縁側。

大人の視線が届くところでも、少し外れたところでも、

同じ言葉が使われるようになっていた。


「それ、言っちゃだめだ」

教師が注意する。


すると、別の子が囁くように繰り返す。

意味を確かめるでもなく、笑いながら。


「それって、誰が決めたの?」


禁止は効かなかった。

むしろ、形だけが強化される。


問いの内容は、もはや重要ではない。

理由を求める気配もない。

言葉は、疑問ではなくなっていた。


それは、間を止める合言葉になっていた。


誰かが命令する。

誰かが動こうとする。

そこで、一拍の沈黙が入る。


「それって、誰が決めたの?」


作業は止まる。

遊びは中断される。

会話は、次の言葉を失う。


答えは求められていない。

だが、否定もできない。


誰も嘘をついていない。

だから、押し切ることができない。


大人たちは、訂正しようとする。


「深い意味は考えなくていい」

「そんなことを言うのはやめなさい」


だが、その瞬間、

自分たちが何を前提に進めていたのか、

言葉にできないことに気づく。


子どもたちは、深刻ではない。

ただ、言葉が止める力を持つことを、

遊びの中で覚えてしまっただけだ。


世界は、依然として平穏だった。

犯罪は増えていない。

反乱も起きていない。


市場は開き、

祈りは続き、

軍は配置についたままだ。


それでも、

すべての進行が、わずかに遅れていく。


決断までに、

命令から行動までに、

必ず一拍の空白が生まれる。


それは記録に残らない。

数字にも現れない。


ただ、世界全体が、

息を吸ってから吐くまでの間を、

少し長く取るようになった。


歴史編纂者は、後にこう注釈する。


勇者が社会を変えたのではない。

社会が、自分たちの前提を、

子どもの口を借りて聞き返されただけである。


第四部は、

事件ではなく、速度の変化で終わる。


誰も止められず、

誰も否定できないまま、

問いの形だけが、世界に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ