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新連載!『異世界スライムくん、現代で“おもちゃ”として売られる』  作者: 深森あい


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第5話 マイクの前で、もう一度

夜。

 部屋の明かりが落とされ、デスクライトだけが淡く机を照らしていた。

 外の音は遮断され、空気は静まり返っている。


 ――この空気、まずい。


 我は直感した。

 これは戦場前夜の静けさだ。

 魔王城でも、強敵と相対する前は、必ずこういう空気になる。


「よし……今日は、もうちょっと近くで録ってみよ」


 少女が小さく呟き、マイクスタンドを調整する。

 銀色の筒が、昨日よりも、明らかに近い。


「……っ」


 我は身構えた。

 いや、身構えると言っても、ぷるっと形を整えるくらいしかできぬが。


「スライム、今日はこの位置で……」


 少女は我を小皿ごと持ち上げ、

 マイクの真正面、指一本分もない距離に置いた。


 近い。

 近すぎる。


 マイクから、かすかな機械音と、

 少女の呼吸の気配が伝わってくる。


「……録るね」


 カチ、と小さな音。

 収録開始。


 少女の指先が、ゆっくりと近づく。


 ――来る。


 とん。


 軽く触れただけなのに、

 我の身体がわずかに沈み、ぷにっと鈍い音が出た。


「……いい」


 少女の声は、ほとんど息だった。


 指が、今度は少し深く沈む。

 むに……くしゅ……

 内部の空気が押し出され、湿った音がマイクへ吸い込まれる。


「……昨日より、柔らかい?」


 それは違う。

 昨日より、慣れてしまっただけだ。


 指先が、ゆっくりと滑る。

 押す。

 離す。

 伸ばす。


 ぴと……とろ……ぷる……


 我の身体は、意志とは無関係に音を奏でる。

 魔王様の命令にも、勇者の剣にも屈しなかった我が、

 たった指先とマイクに、こうも反応してしまうとは。


「……ほんと、不思議なスライム」


 少女はあくまで“物”を見る目で、

 だがどこか大切そうに、我を扱う。


 少し力が強まる。


 ぎゅ……ぷちゅ……


「……っ、今の音、すご……」


 我は耐えた。

 耐えねばならぬ。

 声など出しては――


 ぷしゅ……


「……あ」


 少女の手が一瞬止まる。


 ――まずい。


「……空気が抜ける音、かな?」


 そう言って、少女はすぐに納得した。

 よし。

 誤魔化せた。


「スライム素材って、奥が深いなぁ……」


 素材。

 そうだ、素材だ。

 我は兵器であり、眷属であり、

 今は…ただの素材である。


 少女は最後に、指先で軽く整えるように撫でた。


 さら……ぷる……


「……うん、今日もいい音」


 録音停止の音が鳴る。


 我は、どっと力が抜けた。

 形が少し、だらしなく崩れる。


「……使いすぎたかな。

 明日はお休みね、スライム」


 少女はそう言って、

 我を元の容器へそっと戻した。


 ――休み。


 その言葉が、なぜか胸に残った。


「……魔王様。

 どうやらここには、休憩時間があるようです」



---

◆第5話 あとがき


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

体調不良やリアルでの生活の乱れで投稿が滞っていましたがやっと投稿出来ました!


今回は ASMR回・第2弾 として、

距離感と音の密度を意識した回になっています。


少女はまだ、スライムくんを

「ちょっと不思議で、音がいいスライム素材」

としか思っていません。


しかしスライムくん側は、

この環境に少しずつ“慣れて”きてしまっているようで……?


次回は再び 日常ほのぼの回 を予定しています。

ぜひ続けてお楽しみください!


感想・ブクマ・評価、とても励みになります。

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