ミデン編 第十八話 リュカという名の少年
リュカが生まれたのは王都から遠く離れた辺境の村だった。
村は小さく、豊かではなかったが、家族は温かかった。
父は木こりで、母は織物をしていた。
幼いリュカは、森で遊び、母の歌を聞きながら眠る日々を過ごしていた。
だが、村は常に魔物の影に怯えていた。
森から獣が現れ、家畜を奪い、時には人を襲った。
村人たちは互いに守り合いながら暮らしていた。
幼いリュカも、その恐怖を知っていた。
夜になると、森の奥から唸り声が響き、家の中で震えながら眠った。
ある夜、魔物が村を襲った。
父は斧を握り、村人たちと共に立ち向かった。
母はリュカを抱きしめ、家の隅で祈った。
戦いは激しく、村は傷ついた。
父は負傷し、母は泣きながら彼を看病した。
幼いリュカは、その姿を見て胸に誓った。
「……強くなりたい。守れるようになりたい」
その誓いは、彼の人生を決めるものとなった。
少年期、リュカは木の枝を剣に見立てて振り続けた。
父は笑いながらも、斧の扱い方を教えた。
母は「無理をしないで」と言いながらも、彼の努力を見守った。
村の仲間たちは「夢見がちな子供だ」と笑った。
だが、リュカは止めなかった。
「……守るために振るう。それが、僕の剣だ」
やがて、村に騎士団が訪れた。
魔物討伐のために派遣された騎士たちは、鋼の鎧をまとい、剣を振るっていた。
その姿は、幼いリュカの目に焼き付いた。
「……僕も、あんな風になりたい」
騎士たちが魔物を討ち、村を救った夜、リュカは父に言った。
「僕は騎士になる」
父は驚いたが、やがて頷いた。
「ならば、王都に行かなければならない。すぐに家族に会えるかわからない。覚悟はできているんだろうな」
十六歳になったリュカは、村を出て王都へ向かった。
旅は険しく、孤独だった。
だが、彼は止めなかった。
王都に着いたとき、彼は騎士団の門を叩いた。
「……僕は騎士になりたい」
その声は震えていたが、胸には誓いが宿っていた。
騎士団に入団したリュカは、すぐに孤独を知った。
仲間たちは力強く、剣を振るう姿は美しかった。
だが、彼は未熟だった。
剣を振れば動きはぎこちなく、模擬戦ではすぐに倒れた。
「……弱い」
囁きが広がり、距離が生まれた。
昼の訓練では、誰も彼と組もうとしなかった。
模擬戦では余り者となり、孤独の中で立ち続けた。
食堂でも隅の席に座り、パンをかじりながら仲間の笑い声を聞いていた。
だが、彼は止めなかった。
夜になると、訓練場に立ち続けた。
月明かりの下で剣を振り、呼吸に合わせて斬撃を繰り返した。
汗が滴り、呼吸が荒くなっても止めなかった。
「……弱くてもいい。立ち続ければ強くなれる」
その言葉は、父の声と重なっていた。
やがて、彼は少しずつ変わり始めた。
呼吸に合わせて剣を振るう動きは滑らかになり、恐怖を忘れずに立ち続ける力を得た。
模擬戦では、倒れるまでの時間が長くなり、仲間たちは驚いた。
「……あのリュカが?」
だが、距離は縮まらなかった。
彼は孤独の中で立ち続けた。
ある夜、訓練場でミデンと出会った。
短剣を握りしめ、孤独に剣を振るう青年。
「……君も、孤独を知っているのか?」
その問いに、ミデンは頷いた。
「守るために振るう。それが、僕の剣だ」
その言葉は、リュカの胸に響いた。
「……俺も同じだ。守るために振るう。それが、俺の剣だ」
二人は共に稽古をし、模擬戦を行った。
剣と短剣がぶつかり、火花が散った。
孤独を抱える者同士が、互いの誓いを確かめ合った。
「……いつか、俺は証明する。弱いと笑われても、立ち続ければ強くなれる」
リュカの声は、夜に響いた。
ミデンは頷いた。
「僕も同じだ。守るために振るう。それが、僕の剣だ」
夜が更け、星が瞬いていた。
リュカは剣を収め、空を見上げた。
「……僕の人生は、弱さと孤独の中で始まった。でも、守るために立ち続ける。それが、僕の誇りだ」
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