ミデン編 第十三話 落ちる剣、立ち上がる意志
騎士団の訓練場は、昼の光に包まれていた。
新人騎士たちが剣を振り、声を張り上げていた。だが、その輪の外に、一人の騎士が立っていた。
彼の名はエルド。
剣を握る手は震え、動きはぎこちない。模擬戦ではすぐに倒れ、仲間から笑われていた。
「……また倒れたのか」
「弱すぎる。騎士団にいる意味があるのか?」
囁きが広がり、彼の肩は沈んでいた。
ミデンは、その姿を見ていた。
孤独の影に立つ者の痛みを、彼は知っていた。
夕暮れ。
訓練が終わり、仲間たちは食堂へ向かった。
だが、エルドは訓練場に残り、剣を握りしめていた。
「……僕は、弱い。馬鹿にされるだけだ」
その声は、静かに夜に響いた。
ミデンは、歩み寄った。
「……稽古をしよう」
エルドは、驚いた。
「……僕と?」
「そうだ。弱いなら、強くなればいい。守るために振るう剣を、学べばいい」
稽古が始まった。
ミデンは短剣を構え、呼吸を整えた。
「呼吸に合わせろ。恐怖を忘れるな」
エルドは、ぎこちなく剣を振った。
刃は空を裂いたが、動きは乱れていた。
「……違う。呼吸に合わせろ」
ミデンは、深く息を吸い、吐きながら刃を振った。
その動作は滑らかで、力強かった。
エルドは、それを真似た。
少しずつ、動きが整っていった。
夜風が吹き、月明かりが訓練場を照らした。
稽古は続いた。
エルドは、何度も倒れ、何度も立ち上がった。
「……僕は、弱い」
「弱くてもいい。立ち続ければ、強くなれる」
その言葉に、エルドの胸に熱が広がった。
模擬戦を試みた。
ミデンが踏み込み、斬撃を放った。
エルドは必死に受け止めた。衝撃が走り、膝が沈んだ。
「……重い!」
「恐怖を忘れるな。呼吸に合わせろ」
エルドは、深く息を吸い、吐きながら剣を振った。
刃が空を裂き、衝撃を受け止めた。
「……できた!」
その声は、夜に響いた。
稽古は続いた。
汗が滴り、呼吸が荒くなっても、止めなかった。
エルドは、何度も倒れ、何度も立ち上がった。
「……僕は、弱い。でも、立ち続ける」
その言葉に、ミデンは頷いた。
「それでいい。守るために振るう。それが、騎士の剣だ」
夜が更け、星が瞬いていた。
稽古が終わり、エルドは剣を収めた。
胸の奥に、熱が宿っていた。
「……ありがとう。僕は、弱いままじゃない」
ミデンは、静かに言った。
「弱さを知る者は、強さを学べる。守るために振るう剣を、忘れるな」
翌朝。
訓練場に立ったエルドは、剣を構えた。
仲間たちは、彼を笑った。
「……また倒れるだろう」
だが、彼は呼吸に合わせて剣を振った。
動きは滑らかで、力強かった。
仲間たちは、目を見開いた。
「……変わった?」
その視線の中で、エルドは立ち続けた。
弱さを知り、稽古を重ねた者の姿だった。
夕暮れ。
訓練場を後にしたミデンは、空を見上げた。
茜色の空の向こうに、ヌルの背中を思い描いた。
「……守るために振るう。それが、僕の剣だ。そして、仲間の剣でもある」
胸の奥に、誓いが宿った。
孤独ではなく、仲間と共に歩む誓い。
それが、彼の新たな一歩だった。
王都近郊の村に、魔物が出没しているとの報告があった。
新人騎士たちにとっては初めての実戦任務。
小隊ごとに派遣され、村を守ることが課せられた。
ミデンとエルドは、同じ隊に組み込まれた。
「……僕が役に立てるだろうか」
エルドの声は震えていた。
ミデンは、短剣を握りしめながら答えた。
「立ち続ければいい。恐怖を忘れず、呼吸に合わせろ。稽古で学んだことを思い出せ」
その言葉に、エルドは深く息を吸った。
村に着くと、空気が変わった。
家々は静まり返り、村人たちは怯えた目で騎士たちを見ていた。
「魔物は森から来る。夜になると家畜を襲うんだ」
村長の声は震えていた。
隊は森へ向かった。
木々の影が重なり、風が枝を揺らすたびに不気味な音を立てた。
「……来るぞ」
ミデンは、短剣を構えた。
茂みが揺れ、灰色の毛皮を持つ獣が姿を現した。
赤い目、鋭い牙。
それは、ミデンが討伐試験で戦った魔物と同じ種だった。
「……恐怖を忘れるな」
彼は、エルドに声を掛けた。
魔物が唸り声を上げ、跳躍した。
隊の前に立ったのは、エルドだった。
槍を構え、呼吸に合わせて踏み込んだ。
衝撃が走り、膝が沈んだ。
「……重い!」
だが、彼は倒れなかった。
稽古で学んだ通り、呼吸に合わせて剣を振った。
刃が空を裂き、魔物の牙を受け止めた。
仲間たちが息を呑んだ。
「……あのエルドが?」
「弱いと馬鹿にされていたのに……」
エルドは、必死に立ち続けた。
「……僕は、弱い。でも、立ち続ける!」
その声は、森に響いた。
ミデンが踏み込み、短剣を振った。
刃が光を帯び、魔物の肩を裂いた。
獣が吠え、後退する。
「……守るために振るう。それが、僕の剣だ」
エルドは、再び踏み込んだ。
呼吸に合わせて剣を振り、魔物の牙を弾いた。
衝撃が走り、彼の腕は震えた。
だが、倒れなかった。
魔物が最後の跳躍を見せた。
その瞬間、ミデンとエルドは同時に踏み込んだ。
短剣と剣が光を帯び、魔物の首筋に届いた。
獣が崩れ、地面に倒れた。
静寂が戻った。
仲間たちは、目を見開いた。
「……倒したのか」
「エルドが、とどめを……」
村に戻ると、村人たちが歓声を上げた。
「ありがとう! 家畜を守ってくれて!」
その声に、エルドは顔を赤らめた。
「……僕は、弱い。でも、守るために立ち続けた」
ミデンは、静かに頷いた。
「それでいい。守るために振るう。それが、騎士の剣だ」
夜。
村の空には星が瞬いていた。
エルドは、焚き火の前で剣を握りしめていた。
「……僕は、弱いままじゃない。稽古を続ければ、強くなれる」
ミデンは、短剣を収めた。
「強さは、守る心から生まれる。今日、それを証明した」
焚き火の炎が揺れ、二人の影が伸びた。
初めての任務は、二人の絆を深める時間となった。
☆、評価よろしくお願いします。読んでくださりありがとうございました。




