ミデン編 第九話 剣の型
王都の朝は、冬の冷たい空気に包まれていた。
石畳の上を歩く人々の吐息は白く、荷車の車輪が軋む音が街の通りに響いていた。
商人たちは店を開き、子供たちは学校へと急ぐ。
だが、その喧騒の中で、ミデンの耳には自分の鼓動しか聞こえていなかった。
彼は、騎士団の門へと歩を進めていた。
高い石壁と鋼の門は、王都の守りの象徴であり、憧れであり、試練の象徴でもあった。
前回の試験では筆記で落ち、門を越えることすら許されなかった。
だが、今回は違う。
筆記を突破し、実技で異質の技を示し、討伐試験を成功させた。
合格の証を胸に、彼は今、門の前に立っていた。
門の前には、合格者たちが集められていた。
剣を握る者、槍を構える者、魔術書を抱える者、家柄を誇る者――それぞれが緊張と誇りを胸にしている。
彼らの目は真剣で、未来を見据えていた。
「……これが、騎士団に入る者たち」
ミデンは、深く息を吸った。
胸の奥に刻んだ誓いが再び燃え上がる。
だが、周囲から囁きが聞こえた。
「剣に魔力を通した奴だ」
「本当にそんなことができるのか」
「見間違いじゃないのか?」
異質な視線が彼に注がれていた。
騎士団の常識では、剣に魔力を通すことなどあり得ない。
魔術は魔具や詠唱に依存するもの。
剣はただの鋼であり、魔力とは無縁のはずだった。
しかし、ミデンはヌルから受け継いだ技を示した。
試験官も騎士団も驚愕し、理解できなかった。
だからこそ、彼は今、異端として注目されていた。
やがて、教官の声が響いた。
「騎士とは力だけでなく心を持つ者だ。恐怖を忘れず、仲間を守れ」
その言葉は、広場に集まった合格者たちの胸に響いた。
ミデンは、深く息を吸った。ヌルの声が記憶の中で重なった。
『呼吸に合わせろ』
『怖さを忘れるな』
彼は拳を握りしめた。恐怖を忘れず、仲間を守る。それが、剣を振るう意味だ。
門が開かれた。鋼の音が響き、石畳に影が伸びた。
「入団者、進め!」
教官の声に従い、合格者たちが一斉に歩を進めた。
ミデンも、短剣を腰に差したまま、門を越えた。
その瞬間、胸の奥に熱が広がった。
「……やっと、門を越えられた」
前回は閉ざされた門。だが、今度は越えられた。
努力は無駄ではなかった。
夜ごとの学び、紙に刻んだ文字、繰り返した稽古。
すべてが、この瞬間に繋がった。
門を越えると、広場が広がっていた。
石畳の中央には旗が掲げられ、騎士団の紋章が輝いていた。
その前に、騎士団長が立っていた。
鋭い目を持ち、背筋を伸ばした姿は、まさに騎士の象徴だった。
「……よく来た。これから君たちは、王都を守る者となる。だが、忘れるな。力だけでは騎士にはなれな
い。心を持ち、仲間を守り、民を守れ」
その言葉に、広場は静まり返った。
ミデンは、胸に刻んだ。
「……守るために振るう。それが、僕の剣だ」
だが、周囲の視線は冷たかった。
「……あれが、剣に魔力を通した奴か」
「異端だ。危うい」
「だが、討伐を成功させたのは事実だ」
囁きが広がり、視線が突き刺さる。
ミデンは、拳を握りしめた。
「……異端でも構わない。僕は、守るために振るう」
入団式が終わり、合格者たちはそれぞれの隊へと振り分けられた。
ミデンは、石畳を踏みしめながら歩いた。
胸の奥にあるのは、孤独ではなく、誓いだった。
「……追いつきたい。認められたい。ヌルさんに」
彼は、短剣を収めた。
騎士団の門を越えた今、彼の歩みは新たな段階へ進んでいた。
入団式が終わり、合格者たちはそれぞれの隊へと振り分けられた。
石畳の広場から訓練場へと移動する途中、ミデンは周囲の視線を感じていた。
「……あれが、剣に魔力を通した奴か」
「本当にそんなことができるのか?」
「見るからに怪しいだろ」
囁きが広がり、視線が突き刺さる。
ミデンは拳を握りしめた。
異端でも構わない。
彼は「守るために振るう剣」を胸に刻んでいた。
訓練場に着くと、教官が声を張り上げた。
「
これから君たちは、共に鍛え、共に戦う仲間となる。互いを知り、互いを支えろ」
その言葉に従い、合格者たちは小さな輪を作った。
ミデンは、少し離れた場所に立っていた。
孤独を抱えながらも、周囲を見渡した。
剣技に秀でた者、魔術に長けた者、家柄を誇る者――それぞれが誇りを胸にしていた。
そのとき、討伐試験で共に戦った青年が近づいてきた。
槍を握る彼は、真剣な目をしていた。
「……あの時、守ってくれてありがとう」
ミデンは、少し驚いた。
「……僕は、ただ剣を振っただけです」
青年は首を振った。
「違う。君がいなければ、俺たちは倒れていた。剣に魔力を通すなんて、聞いたこともない。だが、あの光が俺たちを守った」
その言葉に、ミデンの胸に熱が広がった。孤独ではなかった。彼は、仲間として認められたのだ。
次に、魔術書を抱えた少女が近づいてきた。
「……本当に、剣に魔力を通せるんですね」
彼女の声は震えていたが、目は真剣だった。
「私は魔術師です。詠唱と魔具に頼るしかない。でも、あなたは剣に魔力を宿した。……羨ましいと思いました」
ミデンは、少し戸惑った。
「……僕は、ヌルさんから教わっただけです」
少女は首を振った。
「誰から教わったかは関係ない。あなたがそれを使い、仲間を守った。それが大事なんです」
その言葉に、ミデンは深く息を吸った。
彼の技は異端とされる。
だが、仲間にとっては守りの光だった。
輪の中で、別の者が声を上げた。
「……だが、危うい技だ。前例がない。騎士団にふさわしいのか?」
緊張が走った。
青年が槍を握り直し、少女が魔術書を抱えた。
だが、ミデンは拳を握りしめた。
「……異端でも構わない。僕は、守るために振るう」
その言葉は、静かに広場に響いた。
囁きは止まり、視線が変わった。
彼らは、異端を恐れながらも、彼の覚悟を認めた。
夕暮れ。
訓練場を後にしたミデンは、石畳を踏みしめながら空を見上げた。
茜色の空の向こうに、ヌルの背中を思い描いた。
「……強くなれば、また会える。仲間と共に歩めば、もっと近づける」
胸の奥に、誓いが宿った。
孤独ではなく、仲間と共に歩む誓い。
それが、彼の新たな一歩だった。
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