ミデン編 第八話 沈黙の誓い
森での討伐試験。
魔物が襲いかかり、仲間が怯む。
ミデンは短剣を構え、呼吸に合わせて斬撃を放つ。
その瞬間――刃が淡い光を帯びた。
「……なっ!」
試験官が声を上げる。
「剣が……光っている?」
騎士団の者たちがざわめいた。
「魔術師でもないのに……」
「詠唱も、魔具も使っていない……」
「こんな現象、聞いたことがない!」
ミデンは、仲間を庇いながら魔物を押し返す。
刃に宿る光は、ヌルとの稽古で刻まれたもの。
だが、試験官には理解できない。
「……見間違いではないか。もう一度だ!」
試験官が叫ぶ。
ミデンは深く息を吸い、再び斬撃を放つ。
刃が光を帯び、魔物の肩を裂いた。
血が飛び散り、獣が吠える。
仲間が目を見開いた。
「……本当に、剣に魔力が通っている」
試験官は沈黙した。
「……前例がない。だが、確かに討伐は成功した」
森に静寂が戻る。
試験官は記録を取りながら呟いた。
「剣に魔力を通すなど、聞いたことがない。……だが、彼は合格だ」
ミデンは短剣を収め、胸の奥に熱を感じていた。
「……ヌルさん。あなたの技を、僕が証明した」
討伐試験を終え、森を抜けたとき、ミデンの胸にはまだ熱が残っていた。
短剣を握る手は震えていたが、それは恐怖ではなく、確かな達成の余韻だった。
試験官の声が耳に残っている。
「討伐完了。合格」
その言葉は、刃よりも重く、彼の胸に刻まれていた。
前回は筆記で落ち、門を越えられなかった。だが、今回は違う。
知識を刻み、剣を振り、命に向き合った。
そして、合格を得た。
王都の街へ戻ると、夕暮れが石畳を染めていた。
人々の声が飛び交い、荷車が行き交う。
だが、ミデンの耳には遠く感じられた。
胸の奥にあるのは、ただ一つ――合格の余韻。
「……レイヴさんに、伝えなきゃ」
彼は、〈蒼銀の環〉商会へ向かった。
扉を押すと、帳簿をめくる音が響いた。
レイヴが顔を上げ、ミデンを見た。
「……試験はどうだった?」
その問いに、ミデンは深く息を吸った。
「……合格しました。二次試験まで突破して、討伐も成功しました」
沈黙が流れた。
レイヴは、眼鏡を外して拭いた。
そして、静かに言った。
「……よくやった」
その言葉は、祝福であり、認める声だった。
ミデンの胸に、熱が広がった。
「……前回は筆記で落ちました。でも、今回は違います。夜ごと勉強して、剣も振り続けて……」
レイヴは、帳簿を閉じた。
「努力は、裏切らない。君はそれを証明した」
ミデンは、拳を握った。
「……ヌルさんに追いつくために、強くなりたいんです」
レイヴは、少しだけ目を細めた。
「強さは、誰かに追いつくためだけのものではない。だが、君の歩みは確かだ」
商会の奥から、果物が運ばれてきた。
レイヴは、それを机に置いた。
「祝いだ。食べろ」
ミデンは、果物を手に取った。
甘さが広がる。
だが、それはただの味ではなかった。
努力の証、祝福の味だった。
「……ありがとうございます」
ミデンは、深く頭を下げた。
レイヴは、静かに頷いた。
「次は、騎士団の門をくぐることになる。だが、忘れるな。恐怖を忘れず、呼吸に合わせろ」
その言葉は、ヌルの声と重なった。
『呼吸に合わせろ』
『怖さを忘れるな』
ミデンは、胸に刻んだ。
夜。
宿の部屋で、蝋燭の灯りが揺れていた。
ミデンは、机に向かっていた。
紙に、誓いを書き留める。
『合格した。レイヴさんに祝福された。
次は、騎士団の門をくぐる。
ヌルさんに、また会えますように。』
その言葉を、何度も書き直した。
文字が滲み、紙が擦り切れても、止めなかった。
ミデンは、短剣を収めた。
「……守るために振るう。それが、僕の剣だ」
胸の奥に、誓いが宿った。
合格の余韻と、レイヴの祝福。
それは、彼の歩みを支える力となった。
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