ミデン編 第六話 筆記試験
王都騎士団の試験会場は、朝から緊張に包まれていた。
石造りの広間に並べられた机。
志願者たちが一斉に座り、試験官の合図を待っていた。
ミデンは深く息を吸い、筆を握った。前回の試験で、彼は筆記で落ちた。
剣を振るうことしかしてこなかった自分の弱さを痛感した。
だからこそ、この一か月、彼は紙と筆に向かい続けた。
夜ごと蝋燭の灯りの下で、魔物の生態を描き、王都の防衛線を写し取り、戦術の基礎を繰り返し書き込んだ。
剣の稽古と同じように、知識もまた繰り返しで刻まれると信じて。
試験官の声が響いた。
「始めよ」
紙に文字が並ぶ。
魔物の特徴、王都の歴史、戦術の基礎。
ミデンは、震える手で筆を走らせた。
「灰色の毛皮、赤い目、跳躍力が高い……」
森で戦った魔物の姿を思い出しながら、紙に刻む。
「北門は厚い石壁、南門は交易路に通じる……」
地図を繰り返し写した記憶が、答えを導いた。
「恐怖を忘れず、呼吸に合わせる……」
ヌルの声が、記憶の中で響いた。
時間は過ぎていく。
周囲の志願者たちは迷いなく筆を走らせていた。
だが、ミデンの紙にも確かな答えが並んでいた。前回のように空白ばかりではない。
努力の跡が、そこに刻まれていた。
試験が終わり、広間に沈黙が広がった。
試験官が答案を集め、合格者の名を読み上げる。
「……次の試験に進める者の名を告げる」
志願者たちの胸は高鳴り、息を呑んだ。
名前が一つずつ読み上げられる。
「……アレン、リュカ、セリス……」
ミデンは、拳を握りしめた。胸の奥で鼓動が響く。
沈黙の後、試験官の声が広間に響いた。
「……ミデン」
その瞬間、彼の胸に熱が広がった。
前回は閉ざされた門。だが、今度は越えられた。
「……やっと、次へ進める」
彼は深く息を吸い、拳を握りしめた。
努力は無駄ではなかった。
夜ごとの学び、紙に刻んだ文字、繰り返した記憶。
すべてが、この瞬間に繋がった。
広間を出ると、朝の光が差し込んでいた。
石畳を踏みしめながら、彼は空を見上げた。
「強くなれば、また会える。知識も、剣も、全部が強さの一部だ」
ヌルの背中を思い描きながら、彼は歩き出した。
次は、実技試験。
剣の証明。
だが、今はただ、この突破の喜びを胸に刻んでいた。
☆、ブクマしていただけると嬉しいです。短いですが、頑張って完結できるように書き進めます。




