ミデン編 第五話 試験再び
王都の朝は、いつもよりざわめいていた。
市場の通りを歩くと、商人たちの声に混じって「試験」という言葉が何度も耳に入る。
騎士団の入団試験が近い――その噂は、街の隅々まで広がっていた。
ヌルと一緒に見た試験にミデンは落ちてしまっていた。
「今年は例年より厳しいらしい」
「魔物討伐の経験がない者は、すぐに落とされる」
「でも、合格すれば王都の守り手になれるんだ」
人々の声が重なり、試験の噂は熱を帯びていた。
ミデンは、果物屋の前で立ち止まり、その声を聞いていた。
胸の奥に、重さが広がる。
ヌルがいなくなった今、彼は一人で試験に挑まなければならない。
宿に戻ると、裏庭に立った。
短剣を抜き、構える。
「……試験に受かれば、ヌルさんに追いつける」
斬撃。
刃が空を裂く。
魔力が震える。
彼は、何度も振った。
汗が滴り、呼吸が荒くなっても、止めなかった。
『呼吸に合わせろ』
『怖さを忘れるな』
ヌルの声が、記憶の中で響いた。
彼は、その声に支えられていた。
夕暮れ。
ミデンは、商会へ向かった。
扉を押すと、帳簿をめくる音が響いた。
レイヴが顔を上げ、ミデンを見た。
「……試験の噂を聞いたか」
「はい。……僕も、受けます」
レイヴは、眼鏡を外して拭いた。
「君は、まだ若い。だが、魔物を一人で討伐した。それは記録に残る」
「……ヌルさんに追いつくために、受けます」
沈黙が流れた。
レイヴは、帳簿に何かを書き込みながら言った。
「試験は、剣だけではない。心も試される」
ミデンは、拳を握った。
「……心も、強くします」
夜。
宿の部屋で、蝋燭の灯りが揺れていた。
ミデンは、机に向かっていた。
紙に、試験への誓いを書き留める。
『強くなれば、また会える。
試験に受かれば、ヌルさんに追いつける。』
その言葉を、何度も書き直した。
文字が滲み、紙が擦り切れても、止めなかった。
]翌朝。
王都の騎士団の門の前に立った。
高い石壁。鋼の門。
その前には、すでに多くの志願者が集まっていた。
剣を握る者。槍を持つ者。魔具を抱える者。
彼らの目は、皆、真剣だった。
ミデンは、短剣を握り直した。
胸の奥に、重さが広がる。
だが、その重さは、彼を支えるものでもあった。
「……今度こそ、合格する」
その言葉を胸に刻み、彼は門を見上げた。
ヌルの背中を思い描きながら。
そして、自分の足音を刻み始めていた。
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