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吸血姫Nullが人間に堕ちるまで 〜第二部制作中〜  作者: 早乙女姫織


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ミデン編 第三話   稽古の記憶、刃の感触

夜明け前の裏庭は、まだ冷たい空気に包まれていた。

石畳には薄い霜が降り、踏みしめるたびに小さな音を立てる。

ミデンは短剣を抜き、構えた。

その動作は、昨日よりも少しだけ滑らかになっていた。

だが、彼の胸の奥には、どうしても拭えない空白があった。

「……ヌルさん」

名前を呼んでも、返事はない。

彼女が立っていた場所は、ただ冷たい風が吹き抜けるだけだった。

ミデンは、目を閉じた。

記憶の中に、ヌルの姿を呼び起こす。

鎌を背に、剣を構え、静かに立つ彼女。

その視線は冷静で、揺らぎがなかった。

彼が振るう刃を、ただ黙って見つめていた。


『遅い。腰で振れ』

『呼吸に合わせろ』

『怖さを忘れるな』


その声が、耳の奥で響いた。

彼は、深く息を吸い、吐いた。

そして、短剣を振るった。

刃が空気を裂く。

その感触は、確かにヌルと稽古したときのものに近かった。

だが、何かが足りなかった。

彼女の視線。彼女の沈黙。

それらがないだけで、刃は軽く、頼りなく感じられた。

「……違う。もっと重く」

彼は、再び構えた。

腰を沈め、呼吸を整える。

刃に魔力を通す。

淡い光が、刃を包んだ。

斬撃。

火花が散るような感覚。

だが、腕が震えた。

ヌルなら、もっと安定していた。

彼女の刃は、揺れず、迷わなかった。

「僕は、まだ遠い」

呟きは、冷たい空気に溶けた。


昼。

ミデンは、宿の部屋で机に向かっていた。

紙に、稽古の記録を書き留める。

『腰で振ること。呼吸に合わせること。怖さを忘れないこと。』

それは、ヌルが残した言葉だった。


彼は、それを何度も書き直した。

文字が滲み、紙が擦り切れても、止めなかった。

「……忘れない。絶対に」

彼は、筆を置いた。

窓の外には、曇り空が広がっていた。

その向こうに、ヌルの背中を思い描いた。


夕暮れ。

裏庭に立つ。

茜色の空が、石畳を染めていた。

ミデンは、短剣を構えた。

「……稽古の記憶を、刃に刻む」

斬撃。

刃が空を裂く。

魔力が震える。

彼は、何度も振った。

汗が滴り、呼吸が荒くなっても、止めなかった。


『頭からつま先まで意識しろ』

『呼吸を合わせろ』

『剣に迷いをだすな』


その声が、記憶の中で響いた。

彼は、刃を振り続けた。


彼は深く息を吸い、吐きながら短剣を振った。

刃が光を散り、魔力が流れた。

今度は、刃が震えず、光が安定した。

「……できた!」

彼の声は震えていた。


だが、彼は止めなかった。

何度も短剣を振り、何度も魔力を流した。

汗が滴り、呼吸が荒くなっても止めなかった。

「……守るために振るう。それが、僕の剣だ!」

その言葉は、夜に響いた。


やがて、刃の光は炎のように揺れ、次第に安定していった。

光は強くなり、刃に宿る力は深まった。

「……魔力が成長している」

彼は息を呑んだ。


だが、彼は慢心しなかった。

「……命を奪うことは、重い。恐怖を忘れてはならない」

その言葉を胸に刻み、彼は立ち続けた。


夜風が吹き、月明かりが揺れた。

訓練場に響くのは、彼の呼吸だけだった。

ミデンの魔力は成長し、刃に宿る光は強くなっていた


夜。

蝋燭の灯りが揺れる部屋で、ミデンは短剣を磨いていた。

布で刃を拭き、光を確かめる。

その動作は、ヌルがしていたものを真似たものだった。

「……楽しかったんだ、ヌルさんは」

彼女が言った言葉を思い出す。


剣を鍛えるのが楽しかった、と。

その言葉が、彼の胸に残っていた。

「僕も、楽しいと思えるようになりたい」

彼は、刃を見つめた。


その光は、まだ弱かった。

だが、確かに彼の中に刻まれていた。

ミデンは、窓の外を見た。

彼の心にはヌルがいた。

「……強くならなきゃ」

その言葉を胸に刻み、彼は短剣を収めた。

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