第二十二話 旅は続くよ、どこまでも
第一部、旅立ち編完結です。
王都を離れて三日。
ヌルは、森の外れの岩場に腰を下ろしていた。
背には鎌。腰には剣。
手のひらには、魔力の紋章が淡く光っている。
風が、草を揺らしていた。
空は曇りがちで、鳥の声も遠かった。
彼女は、剣を膝に置き、静かに目を閉じた。
魔力の流れを感じながら、過去の稽古を思い出していた。
短剣を振るミデンの姿。
魔力を纏わせる練習。
裏庭での静かな稽古。
火花が散った模擬戦。
素材を売った日の沈黙。
それらが、断片となって胸の奥に浮かんでいた。
ヌルは、剣を手に取り、軽く振った。
空気が震え、刃が風を裂いた。
「……剣を鍛えるの、楽しかった」
彼女は、収納魔法から地図を取り出した。
王都から南へ。
山を越え、平野を抜けた先に、青く塗られた場所があった。
“海”
ヌルは、指先でその場所をなぞった。
「……海というもの。見たことがない」
地図には、港町の名前が記されていた。
“リュエル”
交易と漁業の町。
魔物の出没は少なく、魔具の流通が盛んだと記されていた。
ヌルは、地図をしまった。
「次は、そこへ行く」
彼女は、剣を腰に戻し、鎌を背にかけた。
風が、果物の香りを運んできた。
それは、王都の市場で買った最後の果物だった。
「腐らせるな、か」
彼女は、果物を取り出し、ひと口かじった。
甘さが、静かに広がった。
そして、歩き出した。
海というものへ。
まだ見ぬ場所へ。




