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吸血姫Nullが人間に堕ちるまで 〜第二部制作中〜  作者: 早乙女姫織


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第十八話  退屈しのぎの稽古

王都北区、宿の裏庭。朝露が石畳を濡らし、空気は張り詰めていた。


「暇つぶしにはちょうどいいか」


ヌルは、片手剣を手にしていた。

その刃は、魔力を通す黒鉄。

収納魔法から取り出されたばかりで、冷たい光を帯びていた。

ミデンは、木剣を構えていた。

革のベストの下に、薄い胸当てをつけている。

額には汗。けれど、瞳は真っ直ぐだった。


「今日は、剣の“間合い”と“重心”を教える」


ヌルの声は、淡々としていた。


「魔力を纏う前に、まず“刃の動き”を身体に刻む」


ミデンは、うなずいた。


「お願いします」


ヌルは、構えを取った。

剣を肩口に置き、重心を低くする。

その動きは、無駄がなく、静かだった。


「来い」


ミデンは、踏み込んだ。

木剣を振り下ろす。

けれど、ヌルは一歩横にずれ、柄で受け流した。


「遅い。腕で振ってる」

「剣は、全身で振る」


ミデンは、息を整え、再び構えた。

今度は、腰をひねりながら斬りかかる。

ヌルは、剣を軽く弾いた。

木剣が空を切り、ミデンの体勢が崩れる。


「力を入れすぎ。剣は押しつけるものじゃない。流すもの」


ヌルが動いた。

踏み込み、斬りかかる。

ミデンは、木剣で受け止める。

衝撃が腕に走る。

足が滑り、膝が沈む。


「受けるときは、足で吸収する」

「腕だけで止めようとすると、折れる」


ミデンは、歯を食いしばった。


「……はい」

「もう一度」


ヌルの剣が、再び振り下ろされる。

ミデンは、今度は足を引き、体全体で受け流す。

刃が木剣を滑り、空を裂いた。


「……少しは、形になった」


ミデンの呼吸は荒い。


「次は、魔力を纏わせる」


ヌルは、剣を構えたまま言った。


「ただし、纏わせるのは“意志”だけ。力ではない」


ミデンは、短剣を抜いた。

呼吸を整え、魔力を指先に集める。

刃が、淡く光る。

ヌルは、魔力を剣に通した。

黒鉄の刃が、静かに震えた。


「魔力を纏った刃は、空気を裂く。けれど、制御できなければ自分を傷つける」


ふたりの間に、緊張が走った。

風が止まり、空気が沈む。


「来い」


ミデンは、踏み込んだ。

短剣を振る。

ヌルは、剣を横に流し、魔力で弾く。

火花が散る。

魔力と魔力が、刃の上で擦れ合う。


「魔力が重い。流れが止まってる」

「もっと、呼吸に合わせて」


ミデンは、息を吐きながら斬りかかる。

今度は、刃が滑らかに動いた。

ヌルは、剣で受け止め、わずかに後退した。


「……悪くない」


ミデンは、汗を拭った。


「ありがとうございます」

「最後に、一撃だけ本気で来なさい」


ヌルは、剣を構えた。

魔力が、刃に滲む。

空気が震える。

ミデンは、短剣を握り直した。

魔力を、全身に通す。

呼吸を整え、重心を沈める。


「……行きます」


踏み込み。

斬撃。

魔力が刃に乗る。

ヌルは、剣を振る。

ふたりの刃が交差し、空気が裂けた。

火花が散り、風が巻き起こる。

ミデンの短剣が弾かれ、地に落ちた。

けれど、彼は倒れなかった。

足を踏ん張り、姿勢を保っていた。

ヌルは、剣を下ろした。


「……まぁまぁ」


ふたりは、石畳に座っていた。

ミデンは、肩で息をしていた。

ヌルは、剣を収納魔法にしまっていた。


「……あなたの剣、重いですね」

「魔力の重さ。記録されない分、刃に残る」

「でも、僕は……その重さを、少しだけ感じられた気がします」


ヌルは、目を細めた。


「守るための剣。纏わせるのは、力じゃなくて、意志」


ミデンは、静かにうなずいた。

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