(22)絶望の闇で私にできることとは?
自分がスターシードだと言われても、なんのことやら、さっぱりわからなかった。
リンダは顔をあげて見まわしてみるのだがら、そこには漆黒の闇があるだけだった。
まぶたをパチパチした。何も見えない。
どこから声がくるのか、リンダはあたりを見渡した。
隣のケージのなかにいる少女は、膝を抱えてジッと下を見つめていた。
少女には、聞こえていないようだった。
「その場所を教えてください。私たちは子どもたちを救出するために活動しています」
またプレアデス星人の声が頭のなかで響いた。
会話するというよりも、広い体育館にバレーボールを叩く音が響くような感じで聞こえてくるのだ。
『どういうことですか』
リンダは、そう考えた。声に発したわけではない。考えただけである。
『ネットが遮断されていて、子どもたちが監禁されている場所が特定できずに困っていたのです』
プレアデス星人が答えた。
ん?
考えただけで、こちらの言葉があちらに届くということに氣づいたリンダは、失いかけていた希望を取り戻し目を輝かせた。
これがテレパシーなのか?
『私がいまいる場所に、多くの子どもが監禁されています。数はわかりませんが、おそらく100人以上はいると思います。場所は・・・』
リンダは軍人らしく、正確な位置を緯度と経度で説明した。
『わかりました。3時間以内に、特殊部隊をそちらに派遣します。それまで耐えてください』
その言葉を感じたとき、リンダの頬に思わず涙がこぼれ落ちた。
テレパシーなど、まだ信じられないことだが、不思議なことに、これで助かるのだという安堵の気持ちが湧いてきた。
私の魂は宇宙人だったのか?
転生していまここにいるのか?
それがスターシード?
リンダは隣で震えている少女に声をかけた。
「もうすぐ、助けがくるわよ。それまで、あきらめないでね」
手をのばすのだが、隣のケージには届かず、リンダの右手の指はむなしく空を切るだけだった。
少女からは、何の返事もなかった。
どうしたの?
息づかいさえ感じない。
まさか!
リンダは急に不安になって両手で胸を押さえた。
目を閉じて自分の心臓の音を感じた。
隣の少女が、少女が、、、
「う、う、う」と呻き声がもれた。
漆黒の闇から、少年のすすり泣く声が聞こえた。
この部屋には絶望が満ちあふれていた。
恐怖と不安の感情しか味わったことのない子どもたちが泣いている。闇のなかで声を殺して泣いていた。
『リンダ?』
とまたプレアデス星人がテレパシーを送ってきた。
『勇気を出してちょうだい。そこにいる子どもたちを救えるのは、あなたよ。あなたしかいないのよ』
『でも、でも、私に何ができるというの?』
『その最悪の状況下でも、あなたにしかできないことがあるはずよ。子どもたちを元気づけてちょうだい。そうしなければ、か弱い子どもたちは死んでしまう。生きる勇気を与えるのよ。悲惨な出来事のなかにも、必ずひとすじの光明があります。困っている人たちがいるから、助けようとする人たちが生まれます。悪党どもがいるからヒーローが誕生するのです。勇気を出すのよ!リンダ!』
どしよう!
どうすればいいの?
私に何ができるというの?!
そのとき、ふと、イメージが浮かんだ。
それは、小さい頃、教会の聖歌隊で歌っていた自分の姿だった。
9歳のリンダは大きな口をあけてアメージング・グレイスを歌っていた。
歌か! と思った。
歌は愛のメッセージ!
歌は魂の叫び!
歌は命の振動!
歌は神の声!
歌は祈り!
教会でおそわった牧師さまの教えだった。
リンダは、大きな声でアメージング・グレイスを歌った。
絶望の闇で泣く子どもたちの心に「届け!」という祈りを込めて歌った。
神さまの恵みを信じて歌った。
リンダは歌いながら涙を流していた。