(19)ケムトレイルの目的とは?
カリフォルニア州東部、エドワーズ空軍基地は、灼熱の空気に包まれていた。
何日も晴天が続き、空気は乾燥し、リンダ・ハミルトン中尉の肌はカサカサになっていた。
リンダはいくらクリームを塗ってもカサカサになってしまう頬を両手でこすったあと、上官の部屋のドアをノックした。
なかから「入れ!」と短い声が聞こえた。
上官は怠惰な生活を送っていることをありありと表現しているような肥満体型のイケすかない男だった。部屋に入ると葉巻の匂いがした。リンダはこの匂いも大嫌いだった。
上官は鼻ひげを蓄えているのだが、その鼻ひげに葉巻の火がつけばいいのにといつも思う。そんな思いを隠して、リンダは上官の前では厳粛に氣をつけの姿勢を取る。
「上官、お呼びでしょうか?」
「ああ、今月の飛行計画だ。目を通しておけ」
上官はそう言って書類をデスクの上に投げ捨て、リンダに受け取るように顎で指示した。
「はい」
リンダは、空軍パイロットになって3年目だった。
軍用輸送機を操縦し、アメリカの西部全域を飛行するという任務に従事してきた。
輸送機には巨大なタンクが何本も搭載され、高高度の空からタンクの中身を散布するのである。
「気象温暖化の調査と人工降雨実験のためと聞かされていますが、実際、私が散布している薬品は何なのでしょうか?」
リンダは、ずっと疑問に思っていたことを、思い切って言ってみた。
「キミは何も考えなくていい。命令に従えばいいのだ」
「あの、でも・・・」
リンダは言いかけた言葉を飲み込んで、上官の横顔を凝視しデスクにある書類を拾い上げた。
書類を一瞥し、リンダは氣をつけをして敬礼した。
「失礼します!」
リンダは上官の部屋を出てため息をついた。
自分が散布している薬品は、人体に甚大な被害を与える危険なものだという解説動画をネットで見つけたのだ。「ケムトレイル」というらしい。免疫力を低下させ、何らかの病気を誘発させるのだそうだ。
なぜ、そんなことを軍がやっているのか? その目的は?
自分が悪事に加担しているということが耐えきれなかった。
どうすればいいの?
そんなことを上官に相談できないことは明らかだった。
これ以上、危険な薬品散布を続けることはできない。かといって軍を退役したとしても、また、誰かが、この仕事をすることになるだけだ。自分が勇気を出して、内部告発をするべきだろう。
内部告発か、と思った。
そのとき、リンダの脳に直接言葉が飛び込んできた。
ん? なんだ?