(11)ケネディ暗殺とホワイトハット軍
窓の外には緑の芝生が広がり、ときおり小鳥の鳴き声が聞こえた。
尾の部分に青い線の入った小鳥で、メラニア夫人は『幸運を呼ぶ鳥』と呼んでいた。
フロリダ州トランプの別邸マー・ア・ラゴの広いキッチンでメラニア夫人とトランプ家の末っ子バロンが、それぞれカフェラテとコーラを飲みながら話していた。
「ママ、パパはいつまで大統領を続けるつもりなの? 世間のことなどほおっておけばいいじゃないか。ボクたちは、ここにいる限り平和だし、幸せに暮らすことができるじゃないか?」
18になったバロンは、少し政治に興味を持っていて、熱心に母親に尋ねるようになった。
「愛の反対は無関心。世の中のことに無関心ではいけませんよ。自分さえよければいいという考えは少し横においておいたほうがいいかもしれないわね」
メラニアは優しい目をバロンに向けた。
バロンも大きくなったなぁと感慨深くバロンの横顔を眺めながら、そろそろこの世界の真実を息子に話しておく時期かもしれないとメラニアは思った。
バロンは2メートル近くある父親よりも背が高くなっていた。
「パパはホワイトハット軍の最高司令官だって、執事のスコットが言ってたけど、どういうことなの?」
「バロン、いいこと? これから、大事なお話をしますから、最後までよく聞いてちょうだいね」
「うん」
バロンは待ってましたと言わんばかりに、目を輝かせた。
「ジョン・F・ケネディという大統領のことは知ってるわね?」
「テキサス州ダラスで暗殺された大統領だろ? ネットにはそのときの映像もたくさんアップされているよ。それと、ホワイトハット軍がなにか関係しているの?」
「そのとき、アメリカの将来を憂えた愛国者が軍のなかにいたの。最初はわずか数人しかいなかった。愛国者たちは、アメリカがお金持ちや軍需産業の人たちに乗っ取られていることに危機感を持ったのね。軍のなかで少しずつ仲間を増やし力をつけていったの」
「それが、ホワイトハット軍ってこと?」
「そうよ。昔の映画やテレビは白黒だったから、悪役と英雄役を区別するために、英雄には白い帽子をかぶらせていたのね。だから、ホワイトハットというのは国を救う英雄を意味するのよ」
「それで、そのホワイトハット軍は、どうなったの?」
バロンは、食い入るように身を乗り出した。