(1)闇の帝王死す!
この物語はフィクションであり、都市伝説です。
登場人物と実在の人物とは、なんの関係もありません。
あくまでも、エンターテイメントとしてお楽しみください。
2024年2月26日の朝。
ロンドン郊外のロスチャイルド家の大邸宅に、親族が集まっていた。
ロンドン・ロスチャイルド家の第4代男爵ジェイコブ・ロスチャイルドがキングサイズのベッドに横たわっていた。いままさに肉体から魂が抜け出そうとしていた。
長女のハンナ・メアリー・ロスチャイルド(ハナ)は、醜く老いてしまった父親の顔から目をそらした。
ハナは、60歳を超えてなお若々しい透き通るような白い肌をしていた。
それが、どす黒いハナの感情を隠していた。
ロンドン・ロスチャイルド家の繁栄を築いたネイサン・ロスチャイルドの大きな肖像画を、ハナは苦々しい思いで眺めた。
この家を守ることがすべてだった。
青春も恋もこの家のために犠牲にして生きてきたことを、ハナは男娼たちとのセックスと浪費でまぎらわしてきた。
だが、どす黒い感情はますます黒くなるばかりだった。
広々とした部屋の高級絨毯の上を背の高いナースが点滴を交換するために歩いてくる。
心電図のピッピッという音が広い寝室に響いている。
年ぱいのナースが心電図モニターの波形をチェックしている。消毒剤の匂いがほのかに鼻をくすぐる。
「200年以上もの間、我がロスチャイルド家が代々築き上げてきた世界支配を、あんな男に奪われてたまるか!」
ジェイコブが驚くほど大きな声で言い、目をカッと見開いた。
ベッド脇にいたハナの孫娘が「キャッ!」と小さな悲鳴をあげて、母親の後ろに隠れた。
ジェイコブの目が爬虫類のそれのように一瞬細く光ったからだ。
母親は右手で娘の目をおおった。
心電図モニターの波形が乱れ、ピピピピッとけたたましい音が連呼する。
主治医がジェイコブの脈を取る。
主治医がベッドの上にあがって心臓マッサージをする。
主治医は汗だくになりながら心臓マッサージを続けた。
「・・・投与。早く!」
主治医は薬品の名前をナースに告げて、心臓マッサージを続ける。
ナースたちが足早に駆け回る。
しばらくして心電図モニターの音がピーと長く鳴った。
主治医はベッドから降りてジェイコブの手を取って脈をはかる。
「ご臨終です」
ジェイコブ・ロスチャイルド87歳永眠。