第3話-1 京浜大震災後、玉川へ
この場の3人、誰も言葉が出ない。
怒り、恐怖、言葉では説明しにくい受け入れ難いもの。
それらの入り混じった感情を殺すので、みんな精一杯だった。
「……」
叔父さん、妹のユウナ、キール、みんなふつうの人じゃない。
おそらく、俺もそうだ。すでに、みんな覚醒者なんだ。
酸素の薄い地割れの中で窒息死しなかったのは、何らかの能力を俺が発動したからだろう。
そもそもだ。
こんな終末の世界を救うために、覚醒者たちは戦うのか。
そんなの、世界を救う勇敢な戦士の行為でなく、荒野にいる野蛮な奴の気まぐれだ。
俺は腰が抜けて、床に尻もちをついた。
地下鉄の生温い風、消えかけのろうそくの火が目に付いた。
ようやく視界が広がる有様だ。思いがけない事実に、俺は冷静さを失い、視野狭窄になっていた。
今、戦う決意をしないと、ユウナや親父に迷惑をかける。
一度捨てた道へ、そんなちっぽけな理由で戻るのか。
あぁ、運命は想像以上に残酷だ。この世界は、俺へ戦うように命令していた。
ろうそくの火が消えると、この地下にも暗闇が広がっていた。
ユウナはふて寝だ。
俺を心配する言葉をかけてくれたが、キールは先に寝息を立てていた。
ただ1人、俺は寝るのが怖かった。
明日になったら、決断をしなきゃいけないからだ。
俺は愛する人たちを、ただ守りたかっただけなんだ。
暴力を使って、戦いたくない。
守れ。戦え。守れ。戦え。守れ。戦え。
相反する感情が、明日に向かうまで俺を苦しめた。
どんなに暗い夜でも、いずれは明けて朝になる
明日の道は、駒沢から玉川野毛へ向かう。その先、親父の研究所がある川崎だ。
―――
もう朝か。
俺たちの体内時計は狂っていない。誰からでもなく、埃臭くて硬い床から起き上がる。
恐怖に潰されかけた俺でさえ、少しだけ寝ていたらしく、少しだけ体の疲れが減っていた。
まだ天井があって、寝るスペースがある場所でよかった。
ここまでの旅路、高崎から埼玉に入ったときを思い出す。雨の夜は、寝るのも苦労した。
その辺は、ユウナやキールに感謝したい。
簡単な朝ごはんの時間だ。3人で床に座り込む。
キールが乾パンをくれた。こいつの軍服、猫型ロボットみたいによく入るポケットだ。
食欲はなかったが、今後の移動を考えると俺も食べよう。
指導官の教えだけど、軍人は食えるときに食えた奴が最後まで動けて生き残る。
食える奴……いやはや、隣の妹よ。
ユウナは貪るように食べている。食事の上品さは皆無だ。
俺たちをドン引きさせた。
「私は変えられることを知っているの。一方で変えられないものもあると知っている。じゃあ、どっちにベクトルを向けたら行動しやすい?」
「変えられるもの、だろうな」
「あぁ、俺もそう思うぜ」
もう食べ終えたユウナが、俺たちに問う。
キールと俺は目を合わせて、すぐ頷き答えた。