第20話-3 刀工のクモミネ翁、曰く
「どうすれば……」
「それだ。どうしてと悲観して過去を見るか。どうすればと熱い眼差しで今を見るか」
「あ!」
じいさんとの対話で、俺は気づいた。
己の能力とは他人と環境などの外に要因で変わってしまう。不確かなものだ。
絶対的な能力が自分にあると思う幻想は、弱い自分が作り出していた。物語の主人公のような全能感に俺は酔っていたんだ。
もっと強く、より強く、もっと目に見えた成果がほしい。
でも、今の自分を絶対に認めない。
他人に頼られることを自ら求め過ぎて、自分が今、本当にやるべきことから目を背けていた。
この弱い自分を認めることが、能力の有り無しにかかわらず、俺には怖かったんだ。
さらに、刀職人のじいさんは厳しい話を俺にした。
さっき俺の瞳を見ていた鑑定結果だ。
だけど、彼が俺を否定しているわけでない。人の素質というのは未知数なものだから。
現実を知り、ひどく疲れた俺は口が重くなっていた。
「本当の自分を探せ。今、君の瞳の中には何も映っていない。だから、村正に遊ばれ、能力を失った如きで、君自身に価値がないと思っている。そんな奴はどんな質を持つ日本刀を使っても、命が尽きるまで刀に遊ばれる」
「結局、俺は日本刀の使用者になれなかったんですね」
「まだ決めつけなさんな。初心者はそんなものだ。この旅は短かっただろう。それでも君自身が、何を持っているか、何が足りないか、少しだけわかっただろう」
「そうですね。俺は弱かった。でも、たくさんの人たちが側にいるって分かった」
「今はそれで十分。……この村正はわしの手で弔っておく。今後、わしから話があるとき、愚孫からの代弁があるとだけ、君には覚えておいてほしい。なぁに、他の話は忘れても構わんよ」
俺に伝えきったじいさんは、椅子から立ち上がった。
まだ椅子に座っていた俺は、ようやく長く息を吐き出せた。
その俺の顔を見て、傍観者に徹してくれたアヤセとヌシさんは、どちらも微笑んでいた。
やはり、クモミネのじいさんとの対話は怖かった。だからこそ、若輩者の俺には有益な時間だった。
高崎から狭山までの旅路は、俺の自惚れを叩き壊した。
今さら、自分の弱さに再び気づいた。
まだ、その弱さを俺らしく受け入れる方法がわからないけど、それに俺が今気づけただけでいい。
無理をして、俺自身が世界の光にならなくていいんじゃない。
俺も光を目指して歩く人間の1人でありたい。
ふつうの終わり。
もう俺の知らない世界が始まっている。
まだ始まったばかりの時代には、漆黒の闇が広がっていた。
夜明け前が一番暗いって俺は知っているから。
だから闇の中でも、絶対に光を見失わない。




