第20話-1 刀工のクモミネ翁、曰く
ヌシさんが俺に笑いかけた。
「お姉さんのおかげですね。私は頭を使って楽な道を選ぶけど、弟みたいに力頼りだと、違う道を使う可能性があるって、おっしゃってくださいました。そのおかげでカズサを使い、あなたたちを捜索する手がかりになりました」
「ありがとう。ありがとうございます」
姉とヌシさんへそれぞれ感謝を伝える。
ふふん、とアヤセは澄ました顔をした。
一方で、俺のごまかした気持ちはヌシさんに見抜かれた。曖昧に困って笑えば済むと思ったけど、それは俺の浅はかな考えだった。
そういえばヌシさん、無表情がデフォルトのカズサの保護者なんだっけ。
「納得いかない顔をしていらっしゃいますね」
「助かった手前、こう言うもの変ですが、俺にとって都合良すぎるんですよ」
「はっはっは! 雲峰竜哉が我々にも手を回していたんですよ。ただそれだけの話です」
「リュークラウド。……あぁ、叔父さんですか」
難しい顔を止めて、俺は頷いた。
それで狭山の地に、姉のアヤセや、ヌシさん、カズサが揃っていたわけだ。
ナガトが休暇届を出した時点で、叔父さんの目にも止まっていたわけだ。
なんだ、保護者の目が光っていた安全な旅路だったんだ。
小学生のころの気持ちに戻っている馬鹿な男2人にも、これだけの見守りがあれば大丈夫だろうという叔父さんの優しい心遣いが見えた。
あんなに独りきりで悩んでいた自分はなんだったんだろうか。結局、今も俺は独りじゃないんだ。
もう1人の自分、アヤセが俺の頭を手のひらで引っぱたいた。つべこべ言わず行くぞ、とのことだ。
覚悟を決めたアヤセが戸を開ける。
俺たち3人は、じいさんの待つ小屋の中に入った。
クモミネのじいさんは、炉の火を消していた。
どうやら、今日の仕事は止めたらしい。
仕事に集中するため、客人がいようと椅子も出さない人なのに、4人分の椅子を出してくれた。
軍人のトップである叔父さんよりも、じいさんの眼光は鋭く、その所作にも老練を感じさせる。
今から本気の対話をしようってことだ。
その分、俺の会話のハードルが高くなった気がする。
「まぁ、おかけなさい」
「え、ありがとうございます」
粗末な椅子に、それぞれ俺たちは腰を下ろす。
じいさんは俺とアヤセの顔を見て、不思議なことを言う。
職人の目は本質を見抜くと言う。
俺とアヤセが同じなのを、じいさんは感覚で理解していたんだ。
内心怖がるアヤセは、しっかり口を開いた。しぶとく強い姉だ。
「で、光と闇のどちらがこの刀の持ち主だね」
「私のものではないです。弟のものです」
「そうかい……」
「……」
独特の間が空く。その場の誰も口を開けない。
この間、クモミネのじいさんは、俺の灰色の瞳をただ真っ直ぐ眺めている。
早速、俺は困った。どうしても視線が逸らせないんだ。
俺の自由意志で、強気な態度をしたわけでない。完全なる空気が場の行動を支配している。




