第19話-1 狭山湖の奥地
薄らとした灰色の世界を越えて、ついに俺たちは湖の奥地にきた。
狭山湖の湖畔に静かに佇む刀鍛冶小屋、クモミネのじいさんの家だ。
カズサとナガトは他愛ない会話をやめた。目的地に着いたので、俺の聞き役も終わる。
何だか急に、そわそわしてきたぞ。
何年ぶりにナガトの祖父と俺は再会しただろう。緊張のあまり、声がつまる。
「じいちゃん! おひさしぶり……です」
「……」
刀の職人が持つ眼圧。うへぇ、怖い。
クモミネのじいさんは無言だった。
俺から折れた刀を受け取ると、奥の小屋に引きこもった。
俺の悲しい顔を見て、孫のナガトは思わず吹き出した。日本刀で恥ずかしいことを続ける俺が可笑しいようだ。
カズサは横に首を傾げる。生真面目な少女には、この笑いどころが分からないらしい。
どの反応も優しくない。みんな等しく、俺への辱めだ。
拗ねた俺は、ぷいっと視線を逸らす。
外では、木の椅子に座る2人がいた。
黒髪サイドテールの女性が灰色瞳を輝かせて、銀髪で耳長の男性と楽しそうに会話している。
「へぇ、時間の門っていう概念が面白いですね!」
「ふふ、私には貴女という存在の方が興味深いですよ」
直感的に、俺は彼女に気づいた。向こうの彼女も俺に気づいて立ち上がった。
控え目な感じがかぶる。
いつも俺がするように、ためらいがちに片手をあげて、彼女は曖昧な笑みをもらす。
不思議なことに、俺も鏡のように同じ反応をしていた。
「やぁ」
「やぁ」
うん、間違いない。この世界、俺の過去が変わっている。
白い世界に俺が願ったことで、この世界に生まれた双子の姉だ。俺の記憶によれば、この世界で仙台に住む俺の母の命を救った人だ。
双子の姉である皆月絢瀬と、この世界の時間経過において、俺は久々の再会となった。
彼女との関係性は、今の俺の脳みそじゃ整理が追いつかない。この現実世界、過激な情報が多すぎる。
だから、俺は仙台に帰りたくなかったんだ。
歩み寄ってきた彼女は、俺を抱きしめて泣き叫び出した。つい俺ももらい泣きをした。
泣きながら彼女が俺しか知りえない過去を語る。
不思議な気持ちになった。怖がらないといけないんだけど、なぜか俺は安心してしまった。
『俺』はしっかりと俺に伝えてきた。それに動揺する俺を無視して、『俺』は尋ねる。
だから、俺は答えるしかない。
「今度は、ちゃんとお母さんを守ったぞ」
「え?」
「まだ一緒だったとき願っただろ。次の世界では母さんを助けたいって」
「待って。なんでアヤセに、俺の記憶があるんだよ!」
「『俺』も前世の記憶がなつかしい。で、ホウライさんとキールにはこっちの世界で会った?」
「ホウライさんとは会った。キールにはまだ会っていない」
「今の『俺』には覚醒能力がないんだけど、お前は能力を暴力として使っていないよな?」
「ごめん。ただの暴力として使って、大事な人を殺めた……」
「こっちの世界でユウナから聞いたぞ。『俺』が助けても、お前が殺す。何のために『俺』たち分かれたんだよ!」
「じゃあ、お前が俺なら上手くやれたのかよ!」
「もちろん、『俺』はお前より上手くやったさ!」
次第に罵り合う。
鏡となって目の前にもう1人の俺がいると思えた。
間違いなく、双子の姉アヤセには、前の世界での俺の記憶が共通項としてある。
そして、世界をやり直した以降の記憶はそれぞれしか持っていない。
ただアヤセの方が記憶を戻したのが早いと俺は思っていた。母が死なない世界線にしたわけだから。




