第18話-5 サイタマスラム
あの制止が気分だったという話を俺はする。
口にするのは恥ずかしかったけど、能天気な俺らしい行動だと思った。
「今は殺したくなかった。それ以上の理由がない。今は見えない太陽だって、晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、天の気分であるだろう」
「今の日本は、ずっと曇りの気分だ。実際の天気が1つなのに、お前の発言には一貫性がない」
「曇りだから、処分保留だ」
「なるほど、一理あるな」
冷ややかにツッコミをする少女。その通り、日本列島はずっと曇りだった。
だけど、俺はその言葉を利用して、上手く処理した。子供に矛盾を指摘されて、冷静に嘘をつく大人だった。
それでも少女は納得した。
この少女との掛け合いは、何だか人工知能の類と会話をしている感じがした。系統は違うけど、ミズキとの会話を俺は思い出す。
一方で、床に座る女将は天を仰いでから、ため息をつく。茶番劇に見えたのだろう。
無茶苦茶な話だろうが、裏社会の人間は約束をきちんと守る性分のようだ。
俺たちを見逃す、と彼女は約束した。
「荒唐無稽だ。だが、この世界の契約はそんなものか。……興が醒めたわ。お前ら、私の気が変わらないうちにここを立ち去れ」
「ありがとう!」
元気よく返事をして、俺はさっさと外へ歩く。この場から逃げたくて仕方なかったんだ。
ナガトと、助っ人の少女が、俺の後についてきた。
傍らの少女は潜入の際、門番として立っていた下っ端2人を、1人で制圧していた。
少女の赤い瞳はもう治まっていて、灰色の大きな瞳になっていた。
入間基地跡の前で、少女に俺たちはお礼を言う。
「助かったよ、ありがとう」
「ありがとうね」
「ヌシ様の命令を遂行したまで。礼には及ばない」
少女は背中側で両手を結び、もじもじしながら立っている。
嬉しさを堪えて反応に困る少女に、俺はなつかしさを覚えた。
その姿がなつかしく思えた理由は、たぶん俺が、別の人の癖を思い出したのかもしれない。
社交性を発揮したナガトが、デフォルトの無表情に戻った少女に話しかける。
「私は雲峰長門、こっちは東雲一稀よ」
「任務上、お前たちの名前を私は知っている。だが、私が名乗るタイミングがなかったので助かる。私は、黒田和沙だ。本名かどうか知らないのだが、カズサで構わない」
「じゃあ、カズサちゃん。あなたはこれからどうするの?」
「所沢の狭山湖に私が導く。それは、お前たちの目的地だろう」
俺たちにとって、カズサの提案は渡りに船だった。
ものすごく違和感ある話し方をする娘だ。
不器用で中二病っぽい感じ。何だろう。やはり上手く思い出せないけど、その話し方がなつかしくて俺は笑ってしまう。
たぶん、昔会った人の口調に似ているんだろう。




