第18話-3 サイタマスラム
どうせ隣のナガトには話さなくても、俺の思いは伝わるだろう。
このまま2人でさっさと逃げるか、それとも奴らを一掃した方が世の中のためになるのか、少しだけ俺は考えたかった。
今、俺らが全力で逃げたとて、謎の組織ルールがあるから、こいつらはどこまでも追ってきそうだ。
それじゃあ、ナガトのじいさんに迷惑がかかるだろうから、奴らにかかわってしまった罪滅ぼしとして俺たちが掃除するしかない。
この手の奴らは、日本刀を奪ったら金庫などに入れず自分で持ち歩く。
なんの自己アピールかわからないけど、実際、若と呼ばれた男が俺の刀を持ち歩いていた。
こいつらの常識は盗賊っぽい。ちょっと俺たち軍の常識とは違うし、一般的な市民の常識とも違う。
ローマではローマ人のようにしなさいって、かつての教父は言うけどなぁ。
ここは現代の日本列島だ。
うーん。
奴らのやり方はナンセンスで却下、俺は俺たちのやり方でいく。
体力を減らさないために、俺は魂が抜けたように放心していた。来るべきときに備えて、何も考えず、何もしないことも大切なことだ。
おかみって、御神、御上、女将、どれだろう。
くだらないことを俺は考えていた。
1人で張りつめていたナガトが、逆にするべきことに気づいて、落ち着きを取り戻したようだ。
赤い瞳を使って探りを入れていたナガトも、俺の様子に気づいてから、少し目を閉じていた。
ややあって、誰かが来たらしく、雄叫びがあがる。
たぶん俺の目の前、着崩した軍服の女性が、女将であっているのかな。
軍属の俺には、彼女はいわゆる軍人コスプレイヤーだなーと思った。
釣り目で威厳ありそうな顔をしている。
「女将が来たぜ。お前らの人生はもう終わりだな」
「……」
周囲から聞こえる脅しの言葉が、俺には何も響かなかった。
せめて女将さん、その黒く長い髪は結んだ方がいい。実戦で武器を持って戦うと、自慢の髪が邪魔で怪我するからさ。
焦らず慌てず諦めず。
今こそ脱出の時、俺は奴らに縄をちゃんと結ばせていなかった。
まさか、特別警務高校時代に後輩が仕掛けてきた悪戯対策が、こんなところで活きるとは俺も思っていなかった。
日本刀を抜こうとした若に、俺は膝蹴りをした。その体勢が崩れた瞬間に、追撃で俺は奴の顎を蹴り上げた。ついでに、鞘ごと日本刀を奪い返す。
ナガトもいつの間にか縄をほどいていて、奪った拳銃を手に持っていた。
ぞろぞろと下っ端たちが女将の前に立っている。俺たちの攻撃からの盾になったつもりらしい。
俺に勝ち誇って、女将は宣言する。
一方、俺もすでに勝ったつもりだった。単純に、覚醒能力を失っているのを忘れていた。
ここで俺は、すごく恥ずかしい発言をする。
「ふふ、この人数を前にどうする気?」
「同期開始……ってあれ?」
「はん、しょせん軍人モドキがやるハッタリね」
「ナガト、どうしよ!」
するとナガトは何かに気づき、俺の頭を強引につかむと、床へしゃがみ込ませた。
俺たちの足下を越えて、向こう側へ丸い玉が転がり込んだ。




