第18話-2 サイタマスラム
休憩を終えた俺たちは元気よく立ち上がると、行くぜ埼玉と南へ歩き出す。
住宅地を越え、畑風景になり、森になり、長閑な景色の中を俺たちは歩いていた。
入間川を越えて、ここが川越だ。
俺たちは、通行税を自警団員に取られた。
自警団という仕事の税金、それとは別に個人的なチップを求められる場合がある。たまたま出会った、そいつの性格が悪かったんだろう。
そいつの物言いが上から目線で、なんだか俺には不快だった。
「お、いい刀ぶら下げているじゃないか。それをくれたら、もっと良い道を教えてやるぜ」
「良い道じゃなくてもいい。狭山へ行きたい」
「へ、つれないねぇ。まぁ、通行税分は案内してやるよ」
「よろしく」
小江戸と呼ばれた川越の街並みを歩く。
灰色の雲のせいだけではなく、街並みが少し霞んで灰色になっていた。靴の底が歩くたびに、ザリザリと音を立てる。
富士山の爆発で、火山灰が降った北の地点なのだろう。
隠れた場所から、人の視線を感じる。
このスラム街で何があったか分からないけど、余所者への警戒心が強いようだ。
だから、俺たちは観光気分じゃなかった。
前触れなく、関越自動車道を越えたとき、そいつの道案内が終わった。
手で指し示す方が狭山だ、とそいつは言う。
「あっちが狭山、じゃあな」
「あぁ、ありがとう」
少し歩いてみて、違和感があった。
俺は紙地図を見て、現在地を確かめる。確かに、狭山市内である。俺が警戒しすぎて、所沢の狭山湖と言わなかったせいだろうか。
嫌な感じ、もう俺は笑うしかない。右瞳を赤くしたナガトも苦笑いしていた。
「たぶん、彼は本物の自警団じゃないわ。絵に描いたような偽者を掴んでしまったようね」
「偽者って、その右目が言うなら、俺たちヤバくないか」
予感は的中した。
この直後、俺たちは自警団組織に拘束された。
ナガトが右瞳の能力を解除していた。俺は下手に攻撃しない方がいいと判断した。
刺さるような男の声が質問してくる。だが、俺たちに答える義務はない。
「貴様らは文民か、それとも軍人か、どちらだ」
「……」
今は冷静に状況を判断するのが最優先だ。抵抗しないで、俺たちは縄にかかる。
こいつら、軍人のような服装をしている。ただし、袖や首筋に入れ墨が隠れて見えた。
反政府軍みたいな雰囲気、どうやら裏社会の連中のようだ。
俺たちは、本物の軍が放棄した入間基地跡へ連行された。
和中5年7月の混乱期の対応が、ここで差として出た。
横田のアメリカ軍基地は、悉く破壊したために、大規模火災の跡のような状態だったらしい。
そもそも八幡で俺がナツキから聞いた話では、日本の有事に関してアメリカは様子見なんだ。
前向きな話、アメリカの偉い人たちは、理性的に今でなく未来への影響を考えていたと思う。
一方で、自衛軍は基地を破棄せざるを得なくなった際、車両や装備など一切残さなかった。ただ建物を含む場所を残してしまった。
それが入間基地をアジトとして利用させてしまった原因だ。
今、広い格納庫で囚えているのが、俺たち2人だけでいいのだろうか。
ちょっと寂しい気がする。そもそも、避難民に解放しなかったのか。
奴らの動向をうかがいながら、俺は色々考えていた。
「若、こいつらどーするんすか?」
「横田は住める場所じゃない。あちらから、おかみが今日明日にも入間へ来るそうだ」
「とゆーことは、おかみが判断するんすね」
「刀を持っているのは、一般的な庶民感覚ではないと俺は思う。だが、ここで独断をして、組織の秩序を乱すのはどうだろうか」
隣に座っていたナガトが横目で、日本刀を持っていた俺を睨んだ。
いやぁ、今さら怒られても俺は困る。そもそも、この刀を供養するための旅だからさ。
とりあえず、分かったこと。
奴らは軍隊ごっこだ。
あーだ、こーだ、と言っているけど、話す内容がマジで醜悪だ。
現場の当人たちで何にも決められない上に、本当に困っている住民たちの役に立っていない。
さっき通過した川越市内で、静かに様子をうかがっていた住民の視線で、俺たちもこの状況を理解できている。




