第2話-2 京浜大震災後、駒沢の地下鉄
地下鉄の構内は通常、地上よりも頑丈な構造である。
世田谷区に入って、震災での倒壊は少なくなっていたけど、夜を明かすには安心できる場所かもしれない。
ただ、真っ暗なのだ。非常電灯が消えている。
ユウナの声が冷たく響いた。
「キール、電気つけて」
「うっせー。俺の電力は安くないんだよ。ろうそく持ってこいよ」
「ちゃんと準備していますー。私は言われたことを守れない子供じゃないんですー」
「ろうそくに火をつけるまでは、発電してやるよ」
金髪の青年キールは文句を言いながら、彼自身の身体を発光させた。
髪の毛が逆立ち、灰青色の瞳の奥に淡くオレンジの光が見える。
どういう体質なんだ。電気ビリビリ男だったとは驚きだ。
生体反応がどうこうで、穴に落ちた俺を探し当てたって、俺の心電図でも感じられたのか。
ユウナの準備で、ろうそくの火がつくと、疲れた声を出してキールは身体の電気を消した。
体育座りのまま動けない。俺は何から聞けばいいのだろうか。
超常現象や超能力に驚きっぱなしだ。
言葉の準備には、まだ時間がかかった。
その間、キールとユウナは文句を言い合うが、そこまで仲が悪くないようだ。
「ほ~れ、ご褒美のチョコレートだ」
「ふーん、そういう約束守るところは、キールでも嫌いじゃないねー」
「キールでも、は余計だ。さて、お兄ちゃん、どこから説明しようか」
「大丈夫。正気を失ったら、私が力づくで戻してあげるから♪」
地下鉄の構内に、風が吹いている。ろうそくの火がゆらめく。
俺は覚悟を決めて、東京が、この世界がどうなってしまったのか、聞くことにした。
現在進行形の京浜大震災は異様だ。
連日、仙台でも高崎でも、震災のテレビ番組は報道されていた。
局地的に大きすぎる震度や災害情報が、俺は不自然だと思っていた。
そもそも、新宿で大火災が起きたり、渋谷が大水没したり、山手線周りが一気に異常事態になった。
それに、被災地で発生した謎の感染症だ。感染者の大多数は、黒い血を吐き流して、異形化して死に至る。
首都圏から生存者全員が避難勧告なんて、俺が生まれてから聞いたことがない。
さっき見た光景も、だ。
キールの発電体質、ユウナの赤い瞳、クリーチャーを殺す覚醒者という人間。
これ全部、ふつうじゃないだろう。
「まずは、時間の門が開いた。上手く説明できるか分からないけど、イツキは今この場所に存在しているよな」
「ポータル? 入口? あぁ、俺は今この場所にいるな。それがどうした?」
「今ここに、過去や未来とつなぐ時間の亀裂が発生して、時間の門が出来たとしたら、何が起こったと思う?」
「自然災害を越えた大災厄、それに伴うウイルス感染源の発生、とか言い出すんじゃないだろうな」
「もしアインシュタインがいたら物理法則の歪みを驚いただろうが、これは事実だ」
キールが断言する事実ほど、とんでもない空想科学のように俺には聞こえた。
物理法則を無視して、時空が歪んで、時間の亀裂から穴門になった。
過去と今と未来が曖昧になった反動で、東京を中心に大震災だ。
その門の中にあったウイルス源により、多くの日本人が感染してショック死するか、または怪物になり死ぬか。
クリーチャーウイルスと適合した覚醒者は、異能を得て、クリーチャーと戦えるようになった。