第16話-3 竜宮城の玉手箱、破壊
叔父さんは苦い顔をして、遠ざかる港を見つめる。
「阿蘇連山の噴火か。福岡市内まで火山弾が飛んでくるとはな。あの巨大な時間の門が壊れたんだ。……広域の激甚災害は免れまい」
「……」
現実世界に戻った九州北部の大地は、真っ赤な炎で燃え上がっていた。
今、俺たちは、船で海の上に逃げ込んでいる。
ナガトやユウナ、ケイタに限らず、他の軍人たちでさえ、この世の終わりのような光景に、恐怖を覚えて身体を震わせていた。
軍の公式記録では、和中5年8月5日の阿蘇山大噴火により、九州北部を中心に約700万人の災害関連死と記載が残っている。
船内、軟禁部屋の窓からも外の景色が見える。
部屋の椅子に腰をかける鹿島元春首相は、年老いた自身の目で、地元福岡が燃え上がる光景を見ていた。
正気を失いかけていた彼は、粛々と口から言葉として出し、日本の現状を理解しようとしていた。
「あぁ、俺は総理大臣の座に長く留まりすぎたなぁ。東京、大阪はすでに無く、今、福岡も消えた。それに新潟では民衆暴動に、名古屋では頼みの自衛軍が大反乱だ。……もう俺ごときじゃ、こんなに崩れちまった国を立て直せない。これからの復興は、国連さんに任せよう」
叔父さんたち軍の護衛する車で、高崎にある軍の仮設本営にカシマさんは着く。
すぐに彼はその足で、広域避難所へ赴き、自ら慰める言葉を被災者1人1人にかけた。
ただ彼の心中は複雑だったと思う。
かつて東方大将軍が指導した日本軍が、連合軍との戦争に負けたときと同じような国難の渦中である。
きっと彼は、戦犯として処刑を待つ囚人のような気持ちだったに違いない。
一国の首相として彼は、最後の務めがあった。
臨時で首相を受け入れた仙台へ向かう。
この仙台で、日本共和国の破産宣言を国内外へ向けて、彼は出した。
「今、全日本国民が経験のない大災厄の渦中です。私は一国の首相として、苦渋の選択を迫られております。どうか、全国民の皆様、世界各国の皆様、愚者である私の話を真摯に受け止めていただけませんか」
かつて敗戦を宣言したとき、全国民の胸にささった言葉とは違う。
ただ1人の日本人が涙を堪えながら、沈みゆく国の窮状を訴え、今後の対応を世界へ協力していただけるように話し続けていた。
最後の国民たちは首相の話を聞き、泣く者、喚く者、暴徒と化す者、諦めて海外へ逃げる者、それ以外も含めて、様々な反応をする者たちがいた。
和中5年8月29日、極東の島国である日本共和国が滅んだ。
この時点で、世界地図上から名前を抹消されたんだ。
すべての日本人が難民指定され、残った日本列島の地は国際連合による復興特区となった。
度重なる震災、火山の噴火により、日本列島は何年もの間、太陽の光を失い、曇天の下で冷え込んでいくだろう。
日照不足から作物不良で食糧困難、失業者や精神錯乱者の急増、犯罪が増えて治安悪化、ペストのような疫病が蔓延する時期もあるかもしれない。
今、当事者になった俺たちが分かっているのは、長くつらい暗黒の時代を、生き残った日本人がさまよう物語のはじまり部分だけだ。




