第16話-2 竜宮城の玉手箱、破壊
ノゾミとの同調が続いていた俺は、彼女の気持ちに応えた。
俺の意志で冷静な判断ができない。人として最悪だった。
それでも、俺の手は彼女を始末するために、腰に下がった日本刀を抜いた。
立っていた彼女に向けて、日本刀『六紋村正』を投げつけた。串刺しになった彼女は、教壇に叩きつけられた。
俺に微笑みを浮かべて、彼女は永遠の眠りに落ちた。その瞳は暴走した金色から、もはや何も映さない黒になった。
勢いがあったわけではないけど、彼女の身体に刺さった刀が折れた。その折れた日本刀、柄の方が床に転がる。
何故か、俺の手がノゾミを殺していた。
意味が分からず、罪深い両手のひらを見る。強い幻覚で、黒い血に手が染まっているように見えた。
ノゾミの生存反応がなくなり、俺の同調が解けかけている。灰色の瞳に戻りつつあった俺は、立ったまま震えていた。
「あ、あ、あ」
直後、ケイタは怒りの声を出す。それは、少しノゾミに似ていた。
それにかぶせるように、俺の心を読んだナガトが叫ぶ。さらに、俺の頬に渾身の張り手をナガトはくれた。
「お前ッ!」
「イツキ、あなたはカシマノゾミじゃない! いい加減、正気に戻りなさい!」
一種の覚醒能力の暴走が、強制的に止まった。カシマノゾミから完全に同調が抜ける。
深い灰色の瞳になった俺は、腰から床に崩れ落ちた。今、俺の痛む頬を片手で押さえる男が何者か分からなくなっていた。
ふと、最後の鐘の音が鳴った。教会の外にいたクリーチャーどもが一斉に消滅した。
同時に、教会の扉が開く。
ユウナが空間の異変に気付いた。
天が崩れたように青い破片が福岡市内へ降り注いでくる。
「ナガトさん、この空間壊れている! ここから脱出しないと!」
「妹ちゃん、そうね! 港へ逃げましょう!」
欠けた日本刀を掴んだケイタが、俺を殺そうと迫り寄る。だが、彼の身体をナガトが手で掴み上げた
ユウナは肩を貸し、動きそうにない俺と無理やり二人三脚した。
暴れるケイタ少年を車にぶち込み、青い顔のナガトは急発進させる。
人形みたいに無表情な俺をサイドカーに押し込めると、厳しい顔のユウナはバイクを出す。
青い破片が滝のように空から降り注ぎ、九州北部にあった謎空間が壊れていく。
その中、妹はバイクで車を先導して、福岡の港へ向かった。
港では海上自衛軍の船が、バイクと車を出迎えた。
焦った顔の叔父さんが肩に、精神廃人状態の俺を担ぎ上げると、ナガトたちに指示を出した。
役目を終えているので、正直にユウナが叫んだ。
「車両は廃棄だ。みんな乗船しろ」
「叔父さん、私もいいのッ!」
「緊急避難に敵味方なしッ! 総員退避だッ!」
「はいッ!」
叔父さん、俺、ユウナ、ナガト、ケイタが船へ乗り込んだ。
担がれた俺だけ視線が海でなかった。
彼女が残した、美しい世界の崩壊を見ていた。
あの教会があった福岡市内へ、青い破片が降り注いでいる。
徐々に空間が、青から赤い景色へ変わる。しまいには、灼熱の赤い塊が福岡市内へ降り注いでいた。
炎の巻き添えの寸前で、船が港を出航し、俺たちは赤く染まる雲の下に脱出した。




