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デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章(きもりあきら)
第3章 灼熱の大地 燃える福岡
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第15話-4 彼女の懺悔

 さすがに、願い事の対価が大きすぎて、私の意識は怖くなった。そいつには、私の心などお見通しのようだ。


『人間の子よ、怖くて声にもならないか』

『……』


 悪魔の契約に、私はサインをしようとしている。

 この転生後、ヒトとしてもう恋なんて出来ないだろう。

 だから、もし仮にイツキくんと再び出会ったとしても、人間の妹さんに彼をあげてもいい。

 それが終わったら、人間を止めて、私は彼の飼う猫になりたい。

 猫になった私は人間の彼より早く死ぬけどそれでいい。

 ただ彼の傍にいたい。


 その声は笑う。私の考えが面白いみたいだ。


『いいよ。子猫ちゃん、あなたが高校3年生になれば、彼と再び会うでしょう。その代わり、鹿島希望(カシマノゾミ)としての周囲の記憶は消える。次の世界のあなたは錦織(ニシオリ)博士の養女になって、鹿島(カシマ)家どころか誰も違和感に気づかない。そのときまでは、錦織紡千(ニシオリホウセン)だからね』

『じゃあ、それでいいや』

『せいぜい、あがいてちょうだい。さぁ、お行きなさい』


 悪夢。

 私は布団を半分押し上げて、上体を起こした。

 知らない部屋だ。私の手は少し大きくなっていた。

 まだ半濁の意識のまま、起き上がった私は立って歩く。

 その部屋にあった全身が映る鏡で、今の私を見る。

 昔の面影もない姿だ。短い金髪、黄色い猫目、まるでギャル娘のような感じだ。

 あいつが話していた通り、死から戻った世界では私の身体は成長していて、少し未来へ時間が進んでいた。

 この際、陽キャな容姿はどうでもいい。

 そこで、頭痛が起こった。立っていた私は頭を押さえて、床に膝を落とした。

 知らない情報が頭に流れ込む。空白だった数年間、私の記憶が上手く足された。

 偽りの記憶だろうけど、この世界で私が事を成すには必要な情報だった。

 まさに神の技。まぁ、私の世界にとって、都合よく解釈させてもらおう。


「ふーん、そないな設定ね。この部屋、うちの部屋なんやね」


 軽口を叩くと、悪魔が乗り移った私は、ゆらりと立ち上がる。

 今度は私が死神で、あいつらの魂を狩る番だ。この転生によって、私の居場所は与えられた役割で決まっていた。だから、もう私は生死の概念に邪魔をされない。

 完全に立場を理解できたから、私の頭はスッキリした。不安がまったくない。これ、感じたことがない『死合わせ』だ。

 逸る狂気を抑えながら、悪魔の喜びを私の口に話させる。


「愉しい復讐のはじまりや」


 鏡に映る私は、錦織紡千(ニシオリホウセン)として、残忍な笑みを顔に浮かべていた。


―――


 あの白い世界は、時間の門(ポータル)の向こうだ。

 この世界へ渡る前に、そこにいた何かと俺も話をしたことがある。

 俺より前にカシマノゾミは、あの場で悪夢のような契約をしていた。

 彼女は自分の居場所のために、他人から受ける愛情を手放したんだ。


 俺の怒りは、すっかり悲しみに染まってしまっていた。

 もし、小学生だった俺の手が、逃げる彼女の手を掴むことが出来たら……。

 どうやら、鈍感すぎる俺でも思い出したらしい。

 あの日のつづきだ。

 背広を着た年配のおじさんが、「のぞみ、のぞみ」と孫娘の名前を呟きながら狼狽えていた。

 俺たち子供、大勢の大人たち、総がかりで彼女を探した。でも、彼女の姿は見つからなかった。

 明日、警察に引き継いでもらい、神隠しにあった彼女を捜索するという話を周囲の大人から聞いた。

 1か月しない頃、俺は親父とその話をした。すぐに彼女の捜索は終わったと、親父は言っていた。

 てっきり彼女が見つかった、と俺は思っていた。


 いいや、違う。

 白い世界にいた、あいつの仕業だ。

 あの見えざる手で、カシマノゾミ失踪事件の辻褄を合わせられた。

 あいつが決めた設定で、この世界が回り出したんだ。


『強制同期解除』。


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