第15話-4 彼女の懺悔
さすがに、願い事の対価が大きすぎて、私の意識は怖くなった。そいつには、私の心などお見通しのようだ。
『人間の子よ、怖くて声にもならないか』
『……』
悪魔の契約に、私はサインをしようとしている。
この転生後、ヒトとしてもう恋なんて出来ないだろう。
だから、もし仮にイツキくんと再び出会ったとしても、人間の妹さんに彼をあげてもいい。
それが終わったら、人間を止めて、私は彼の飼う猫になりたい。
猫になった私は人間の彼より早く死ぬけどそれでいい。
ただ彼の傍にいたい。
その声は笑う。私の考えが面白いみたいだ。
『いいよ。子猫ちゃん、あなたが高校3年生になれば、彼と再び会うでしょう。その代わり、鹿島希望としての周囲の記憶は消える。次の世界のあなたは錦織博士の養女になって、鹿島家どころか誰も違和感に気づかない。そのときまでは、錦織紡千だからね』
『じゃあ、それでいいや』
『せいぜい、あがいてちょうだい。さぁ、お行きなさい』
悪夢。
私は布団を半分押し上げて、上体を起こした。
知らない部屋だ。私の手は少し大きくなっていた。
まだ半濁の意識のまま、起き上がった私は立って歩く。
その部屋にあった全身が映る鏡で、今の私を見る。
昔の面影もない姿だ。短い金髪、黄色い猫目、まるでギャル娘のような感じだ。
あいつが話していた通り、死から戻った世界では私の身体は成長していて、少し未来へ時間が進んでいた。
この際、陽キャな容姿はどうでもいい。
そこで、頭痛が起こった。立っていた私は頭を押さえて、床に膝を落とした。
知らない情報が頭に流れ込む。空白だった数年間、私の記憶が上手く足された。
偽りの記憶だろうけど、この世界で私が事を成すには必要な情報だった。
まさに神の技。まぁ、私の世界にとって、都合よく解釈させてもらおう。
「ふーん、そないな設定ね。この部屋、うちの部屋なんやね」
軽口を叩くと、悪魔が乗り移った私は、ゆらりと立ち上がる。
今度は私が死神で、あいつらの魂を狩る番だ。この転生によって、私の居場所は与えられた役割で決まっていた。だから、もう私は生死の概念に邪魔をされない。
完全に立場を理解できたから、私の頭はスッキリした。不安がまったくない。これ、感じたことがない『死合わせ』だ。
逸る狂気を抑えながら、悪魔の喜びを私の口に話させる。
「愉しい復讐のはじまりや」
鏡に映る私は、錦織紡千として、残忍な笑みを顔に浮かべていた。
―――
あの白い世界は、時間の門の向こうだ。
この世界へ渡る前に、そこにいた何かと俺も話をしたことがある。
俺より前にカシマノゾミは、あの場で悪夢のような契約をしていた。
彼女は自分の居場所のために、他人から受ける愛情を手放したんだ。
俺の怒りは、すっかり悲しみに染まってしまっていた。
もし、小学生だった俺の手が、逃げる彼女の手を掴むことが出来たら……。
どうやら、鈍感すぎる俺でも思い出したらしい。
あの日のつづきだ。
背広を着た年配のおじさんが、「のぞみ、のぞみ」と孫娘の名前を呟きながら狼狽えていた。
俺たち子供、大勢の大人たち、総がかりで彼女を探した。でも、彼女の姿は見つからなかった。
明日、警察に引き継いでもらい、神隠しにあった彼女を捜索するという話を周囲の大人から聞いた。
1か月しない頃、俺は親父とその話をした。すぐに彼女の捜索は終わったと、親父は言っていた。
てっきり彼女が見つかった、と俺は思っていた。
いいや、違う。
白い世界にいた、あいつの仕業だ。
あの見えざる手で、カシマノゾミ失踪事件の辻褄を合わせられた。
あいつが決めた設定で、この世界が回り出したんだ。
『強制同期解除』。




