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デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章
第3章 灼熱の大地 燃える福岡
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第14話-4 竜宮城へ突入

 俺の傍に、よつんばいの姿勢で耳を手でふさいで、苦しい顔をするナガトがいた。

そして、その隣には見覚えない少年が両膝をつき、生気のない目で前を見ている。


「イツキ……。妹ちゃん……」

「……なんだこれ、嘘だろ」


 神様、そんなに俺を憎いんですか。どうして彼女が敵なんですか。

 聞き覚えがある声って、ホウセン、お前だったのか。

 彼女に裏切られた、と俺は分かった。

 恐らく、妹のユウナの能力を使って、ナガトを餌に上手いこと誘導させられたんだ。

 嘘だよな。これ、嘘だよな。

 膝を折ったまま動けない俺は、祈ることさえできない。

 ただ目を開いたまま、銀瞳を震わせるだけだ。


 九州北部の時間に異常が起きていた。

 この地は、永遠に7月20日を繰り返すんだ。

 だから、クリーチャーは死んでも蘇る。

 カシマハルヒコさんは、何度も死ぬことになる。

 この死ぬことが許されない世界が、竜宮城だって言うのかよ。

 理解不能を超えてしまい、ついに俺の思考は停止した。

 見かねた十字架のミズキが、この状況の解説をし始める。


『亀が連れて行ってくれない竜宮城なんて、ただの煉獄だ。その魂の罪を浄化しない限り、解放されない場所。そうだろう、鹿島希望(カシマノゾミ)さん』


 ニシオリホウセンじゃない? 目の前の彼女が、カシマノゾミ?

 バイオロイド・ミズキの説明は、毎回、俺の想像を超えてくる。

 黄色い髪も黄色い瞳も、今の彼女はなんだか神々しい金色に近い。

 俺と同じ覚醒者が、問答無用で他人を跪けている。この不気味な神通力を使っているんだ。

 悪魔は俺たちに宣戦布告した。


「竜宮城の玉手箱って、あのおじさんは不愉快な名前をつけてくれるのね。煉獄なんて甘いものでない。私はカシマノゾミ、鹿島家とそれを助けるすべてを裁く地獄の番人だ!」

「ひふッ」

「父親の七光り、ただの偽善者がッ!」


 カシマノゾミが空中を鍵盤のように手の指で弾く。

 どうやら個別の裁きの音だ。全体攻撃でないので、俺たちはいったん解放された。

 丸くうずくまるナガトは涙と鼻水、小さく声にならない叫びを出す。

 ノゾミは、ナガトの腹をサッカーボールのように蹴り上げた。

 それで、彼は気を失った。


 手足が動く。わずかなチャンスだ。

 涙と唾液を垂れ流すユウナは、よつんばいで歩きながら、日本刀の装具に手をかけようとしていた。


「ユウナ、がんばりなさい……お兄ちゃんのため……なんだから……」

 

 悪魔はわざと解放した。俺たちの希望を1人ずつ消すためだ。

 薄く笑っているノゾミは、ユウナの背中に腰を落とした。まるで人間椅子だ。

 そして、空中の鍵盤を手の指で弾いた。

 また個別の裁きの音。無様にユウナは床へ潰れた。

 この空間、愉快に懲罰を宣言する彼女の支配下だ。完全に弄ばれている。


「他人を蔑ろにしても、イツキのためにはがんばれるのねぇ……。でーも、許さないッ!」

「ぐうッ!」

「あーっはっはっは! 気やすく日本語を話すな、豚がッ!」


 ただ仲間たちが裁かれるのを見せられた。

 俺はただ怒りに震えた。

 鎖で全身を拘束された竜のようだ。

 何故か慌てた声で、ミズキは俺に怒りを制する。


『だめだめだめ、怒りに囚われないで! 強制同期開始!』


 じゃあ、どうしろって……。

 あぁ、もう。

 俺の身体に、ミズキが直接アクセスしやがった。

 それと同時に、俺の十字架とノゾミが身に着けたネックレスが、青く光り出した。

 ノゾミの怒声が響く。


「くそバイオロイド、てめぇッ!」


 暗転。

 怒るノゾミ、苦しむナガトやユウナ、放心した少年の姿が、俺の目の前から消えた。

 天神の教会内から、モノクロの景色に変わる。

 おそらく、これはカシマノゾミが見た過去の記憶だ。


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