第14話-3 竜宮城へ突入
福岡市内に入った。
さまよう亡者であるクリーチャーの数が多い。
俺は日本刀で、進路を塞ぐクリーチャーたちを斬り捨てる。
以前の俺なら、元人間と考えてしまい、奴らを倒すことが出来なかっただろう。
ハルヒコさんのように、さまよう亡者となっている奴らを楽にしてやる方法が、斬り倒すしか軍人の俺には選べなかった。
走ってきたバイクのサイドカーに飛び乗る。
会話のため、バイクが少し減速した。
ユウナは、意外だと言う。その皮肉で、俺は暗い顔になる。
「へぇ、お兄ちゃんって、クリーチャーを斬り倒せるんだ」
「これが正解だとは思えないよ。出来るなら斬りたくない」
「うーん、言葉は優しいんだけど、感情的なのは優しくないね。死んだカシマさんのこと考えていたでしょ」
「そっか、今の気分でクリーチャーを殺しているように見えるか」
「ただの手向けだって思いなよ。目的を遂行するのが優先」
半端な優しさは判断を鈍らせる。
俺に迷いを断ち切らせようと、ユウナは話しかけたんだ。
彼女はアクセルを踏み、バイクに橋を渡らせた。
福岡市内は大小さまざまな川によって、砂州のような地形になっている。そこが平地で街になっていた。
福岡県庁方面でなく、バイクは天神方面を目指しているようだ。
妹よ、気分で目的地なしにツーリングしていないよな。
さすがに違うようで、彼女に俺は笑われた。
「私の覚醒能力は、絶対空間認識能力なんだ。物体の持つ固有振動を読める」
「人間とクリーチャーは違うのか?」
「えぇ、たぶん。微弱な反応だけど、覚醒者が近くにいるみたいなの。お兄ちゃん、心当たりある?」
「覚醒者の微弱な反応……。まさかナガトか!」
「ナガトさんって、確か叔父さんの息子さん。あ、ここ!」
ユウナ曰く、覚醒者、人間、クリーチャーで、それぞれの固有振動数が違うようだ。
その固有振動からの波を彼女が読み、絶対空間認識能力を修正する。その座標に現れた凸凹の大きさで、空間にいる生物がなんなのか推測できるようだ。
今のところ、クリーチャーウイルス感染者しか位置を特定できないらしい。
鍛錬すれば人間なら誰でも位置を特定できるかも、といつか聞いたような妹の答えだった。
前の世界でも、今回も、俺はその能力で助けられている。まさかナガトの捜索にも役立つとはね。
福岡市天神の広い公園の中、ユウナはバイクを停めた。
俺が辺りを見回すと、見覚えがある自衛軍車両が停まっていた。
間違いなく、ナガトたちが近くにいる。
ただし、俺とユウナの思惑は少し違っていた。ここ、と言ってバイクを停めた場所は、ずいぶん大きい教会の前だったのだ。
人間の救出より、さっさと『玉手箱』を破壊したいってことだ。
ユウナの絶対空間認識能力を使わないでも、覚醒者の俺は本能的に空間の歪みがここにはあると思った。
教会から昇る、黒いオーラのようなものが見える。度を越した不気味な雰囲気に、俺は圧倒された。
この教会が『竜宮城の玉手箱』だ。
ためらわずにいつも進むユウナが、硬い表情になって立ち止まった。
あらためて、妹に覚醒者が中にいるか、臆病になった俺は尋ねる。
「ははは、ウイルス源の時間の門反応にしては巨大すぎるや。さすがに、私でも怖い」
「なぁ、ユウナ。ナガトたちはこの中にいるのか?」
「うん、中に微弱な反応。間違いなく覚醒者だね」
「1人か?」
「ごめん。人数までは分からない。私の能力は不完全みたい」
「そうか。じゃあ……」
唐突に、教会の扉が開いた。そして、鐘の音がなる。
げ、倒したクリーチャーが復活してしまう。
是非もなし。
俺たちは決心しないまま、教会の中に逃げ込んだ。
ふいに、パイプオルガンらしき荘厳な音がした。
聞き覚えのある女の声が、俺たちを蔑む。
「はっはっは! すべては私が出す音の支配下、敗北者どもは懺悔しろ!」
驚いたユウナは、反射的に刀を抜いて、扉に叩きつけた。
ヘナヘナと、力ない一撃だ。
うん、今回も脱出できないらしい。それはいいけど、この音はなんだ。
妹は力なく、お尻から崩れ落ちた。
得体の知れない重さが、俺の身体を襲った。思わず、両膝をつく。




