第14話-2 竜宮城へ突入
思考が次へ移り、叔父さんの言葉を俺は思い出す。
時差酔い。どうして、時差が発生するのか。
俺は違和感を口にする。話さないユウナに、あえて俺は意見を聞いてみた。
「時差酔い、クリーチャー化、この違和感なんだと思う?」
「……」
日本刀を鞘に納めて、ユウナも少し考え込んでいたようだ。妹は推論だけど、と言いながらも俺に1つの考えを教えてくれた。
説明によると、九州での時間は戻るようだ。その時間逆行、1日前への戻り方が複雑らしい。
それで時差酔いが起きるのだろう、と妹は言う。
「推論だけど、時間が進んでも、鐘の音みたいなので時間が戻るの。半日だったり、1日だったり。何回分か合わせて、1日前に戻っている感じ。私の感覚がおかしいと思っていたけど、この人の言葉で分かった」
「それ、クリーチャーが発生しても消滅しているのに、かかわっているのかな」
「それもある。質問、お兄ちゃん、今日は何月何日?」
「8月4日だよ」
「ふーん、がんばって数えていたけど、私は今日を7月20日だと思っていた。ずぅっと、クリーチャーの復活とともに、私たちも同じ1日を繰り返すのね」
息絶えたハルヒコさんを見て、ユウナはつまらなそうに言う。
彼女はポケットからチョコレート菓子出して、包装を破り、流れ作業として口に放り込む。
場に合わない咀嚼の音で、俺は次の行動へ移れた。ハルヒコさんの目を閉じてやり、合掌してから立ち上がった。
この環境、生き地獄だ。
時差酔いの中で、永遠に1日だけを繰り返す。和中5年7月20日をループする九州北部だったのか。
大災厄を起こす時間の門。それが異常な状態ってこと、おそらく関係しているんだろう。
クリーチャーウイルスの蔓延よりも、もっと意味が分からない事態になっている。
タロットカードでいうと、審判だ。その音で、クリーチャーだけでなく、死人も生き返るようだ。
「だから、カシマさんは死んでもまた蘇るのか」
「そう。どうでもいいけど、お兄ちゃんはこの人を知らないんだね。よくお父さんのところに相談に来ていたから、私は覚えているな。鹿島首相の政務秘書官でしょ」
「え、おい。亡くなってから言うなよ!」
「一度、死んだらおしまい。偉い人だろうと誰だろうと、今ここで死んだら、九州で1日間を永遠にさまよう亡者よ。お兄ちゃん、目的は何? それを絶対に間違っちゃいけないからね」
ユウナは冷静に話す。よく聞いていると、なんだか疲れ切った声だ。
もしかして、ユウナも迷子になりかけて、何日分も7月20日をさまよっていたのか。
そんな中でよく俺を探し出したな。本当に意志の強い妹だ。
なら、俺だって引けない。
ただ単純に、1日を繰り返す装置になっている『玉手箱』を破壊するだけじゃ、俺自身が納得できない。
「せめて、カシマケイタくんを助けたい」
「私たちも1日間をさまよう旅人なのに、お兄ちゃんはお人好しすぎるなぁ……」
「ユウナ、次の日へ向かう方法は分かっているんだ。時間の門、玉手箱を破壊する」
「玉手箱ねぇ。教会の鐘の音ってことは、どこかにある教会を破壊するの? どちらかと言うと、カシマケイタくんを探す方が、私は面倒くさいんだけど」
「頑固は俺たち、東雲の性だ。俺1人でもなんとかしてやるさ」
「ふふ、お兄ちゃんってストイックだね。大好き。私も付き合うよ」
眠るハルヒコさんを置いて、バイクに乗り込んだ俺たちは先を急ぐ。
雲一面の夕方の色が、名残惜しそうに消えていく。今夜は深い闇になりそうだ。
これは、俺の直感だ。
なんとなくだけど、福岡市内でケイタくんは見つかるし、同時に玉手箱を破壊できると思う。
ただ、その先の未来が、俺には想像できないんだ。
永遠の1日が終わるとき、次の日へ移ると、いったい何が俺たちに待っているんだろう。
それだけが不安だった。




