第14話-1 竜宮城へ突入
茜色の雲が流れている。高速道路をサイドカー付きのバイクで駆ける。
もうすぐ日没っていうのか。九州の地では、俺の時間間隔がおかしい。
北九州市と福岡市までの距離は、1時間少々なはずだ。
前方の何かに気づいたユウナは、俺へ警戒するように言う。
「お兄ちゃん、何かが立っている。無視して突っ切った方がいい?」
「クリーチャーではなさそう?」
「うん、たぶん」
「じゃあ、停まって」
ユウナが何かと言ったのは、背広を着た壮年の男性だった。
黒い血にまみれていて、茫然と立っていた。
クリーチャー化しかけていると、ユウナは腰の日本刀を抜く態勢だ。
なので、先に俺が彼に話しかけた。
「あのう、どうしたんですか?」
「……」
「あの、俺は陸上自衛軍のシノノメイツキっていいます!」
「軍人さんかい……。ケイタ、無事に逃がしてくれたかい……」
目が虚ろ、生気を感じない壮年男性の声だ。
ケイタとは、この人の大事な人なんだろうか。
俺は状況を把握する。黒い返り血まみれの彼は、その手に拳銃を持っていた。
一般人がクリーチャーを殺したってのか。
それもあって、俺は不審に思った。
「お兄ちゃん! 死んだクリーチャーがいる!」
「……ッ?」
近くに停まっていた車の中で、息絶えたクリーチャーをユウナが発見した。
人間の形が残っている。
半分黒い異形化した女性の遺体、額のコアを銃弾が撃ち抜いていた。
俺は、父に対して怒りのようなものがこみ上げた。
だけど、軍人としてやるべきことを俺は優先した。その怒りは、いったん深呼吸とともに捨てた。
あの場から動かない彼の下へ戻る。
ケイタが車内にはいなかったと、俺は報告をする。そこに彼の声がかぶる。
「あの……」
「私は、カシマハルヒコです。息子、ケイタは逃げていましたか」
「ハルヒコさん、ケイタくんは車内にいませんでした」
「そうか。この世界はただ繰り返しているってわけじゃなさそうだ……」
ハルヒコさんは、薄い笑みを浮かべた。儚くも希望の光に見えた。
さすがに意味が分からなすぎて、俺は何を聞くべきか迷った。
すると、ユウナは日本刀の切っ先を向けながら、立ち尽くすハルヒコさんに尋ねた。
別に脅さなくてもいいと、俺は思う。でも、生気を失った彼は、全く動こうとしない。
「お前、何回死んだ?」
「そうそう。何度死んでも生き返るんだよねぇ。私は……ガフッ……あぁ、また死ぬ時間だ」
「悪夢ね。おやすみなさい」
「……」
ハルヒコさんは吐血した後に倒れた。そのまま、息を引き取った。
ユウナは立ったまま、黙って見ているだけだ。
俺は脈を取ってみたが、彼の心肺停止状態は確実だった。
「……亡くなってしまったか」
「……」
他人の死に対して、たった数か月のうちに、俺たちは鈍感になっていた。
だから、ハルヒコさんを生き返らせることなく、安心して眠らせてあげたいと俺は思った。