第13話-1 北九州市、八幡製鉄所
鬼ごっこは俺の圧勝だ。俺は覚醒能力で、風のように駆ける。
北九州市八幡と道路標識が見えた。
あ、八幡製鉄所が見られるなぁ、と何となく俺は思った。
ゾンビ映画では、施設内に立てこもりするのがお約束だろう。
えーと、立てこもったら、福岡市に行けないような。
うん、風の赴くまま、気が向くままさ。
クリーチャーどもを日本刀の風で吹き飛ばしつつ、港を目指して俺は駆け抜けた。
高架橋の下を通ると、その先は広場になっていた。そこで、たくさんのクリーチャーが歓迎してくれた。
さすがに分が悪い。
覚醒者の俺は、高架橋の上へ飛び跳ねた。着地すると、どうやら高速道路らしい。
「うわ、八幡製鉄所って観光施設なのか。たくさん来場者いるじゃん」
「ふふ、良い眺めでしょう」
「え?」
「もうすぐ時間よ」
独り言に返事がある。そこで1人の彼女と出会った。
黒いライダースジャケット、灰色がかった銀色の髪、灰色の瞳の彼女は、穏やかにほほ笑んだ。
その両耳は尖がっており、まるでファンタジー世界のエルフのような感じがした。
銀髪の彼女が時間と言うと、また教会の鐘の音がした。
目の前のクリーチャーたちは、操り糸が切れた人形のように一斉に倒れた。
そして、朽ち果てて黒い液体となり、地面に吸われてなくなった。
「すげぇ。クリーチャーを操る音か」
「理解不足。だから、あなたはいつも中途半端な行動で私を悩ませる」
すごく辛辣な言葉を投げかけられた。急に何かを思い出したらしく、彼女は怒りの目になったんだ。
蛇に睨まれた蛙の気持ちが、俺はよくわかった。
直感1。彼女と俺はどこかで会っている。
直感2。彼女はふつうの人間じゃない……かもしれない。
俺への殺気が強すぎる。これだけは、勘じゃないな。
「あぁ、鈍感な男。シノノメイツキ、ここで殺す!」
「待って! 何で俺の名前を、わぁッ!」
問答無用に俺の腹を彼女は殴り飛ばした。メジャーリーガーの打球みたいに俺は宙に吹っ飛ばされた。
この強さ、人間の殴り方じゃねぇ。
高速道路上に身体を叩きつけられても勢いが止まらず、俺は高架橋の下に落ちた。
「……ッ!」
痛みのあまり、声も出ない。
それに俺は覚醒者なのに、自己回復が追いつかない。肋骨は折れたみたいだし、左脚もヤバい方向に曲がっている。
恍惚の表情で彼女は、上から飛び降りてきた。瀕死の俺に向けて、ジャンピングエレボーを食らわせる。
いやいや、プロレス技の域を超えているって!
彼女の攻撃で、俺の周囲の地面が蜘蛛の巣状にひび割れている。赤い血が俺の口から飛び出した。どこかの臓器が破裂したようだ。
立ち上がると、彼女は高らかに笑った。ケダモノの所業だ。
「あっはっは! 噂通りでうれしい! 私が100%で攻撃しても、あんたって死なないのね!」
「……ふざけるな」
俺は日本刀の柄で彼女を突き飛ばした。
爆風で彼女は吹き飛び、道路を超えて、高炉のモニュメントにぶつかった。
やべ、一般人を殺してしまったか。フラフラとなりながらも、俺は立ち上がる。
何事もなかったかのように、彼女は動き出す。服が裂けて、身体から皮膚が一部剥げて、銀色のメタリックな部品が見える。